【世界の主要観光局に聞いたアフターコロナの観光のありかた】第5回ドイツ観光局 観光再開に向けて準備が整うドイツではあなたの来訪を心からお待ちしております

公開日 : 2021年11月14日
最終更新 :
西山晃氏
西山晃氏

ウィズコロナに向けて、国内外の旅行に関するニュースが活発になってきています。この連載では、世界の主要観光局に自国のコロナの状況やその間の政治的な動き、旅行に関する施策を聞いていきます。第5回はドイツです。

ドイツは、2G・3Gと呼ばれる政策のもとワクチン接種などの証明書の使用や、観光を促進するLINE・Twitterでのキャンペーンの実施、本格的に旅行者が戻るであろう来年のためのプランを練るなど、観光業再開に向けてすでに大きく舵を切っています。そのドイツならではの着実な戦略からおすすめの観光地まで、未来を見据えたドイツの観光についてのお話を伺いました。

話し手:ドイツ観光局 アジア地区統括局長/日本支局長 西山晃氏
聞き手:地球の歩き方総合研究所

注:インタビューは2021年10月15日に実施されました。そのため、現在の現地状況と異なる部分があること予めご了承ください。また、文中(文末)に一部、現時点の状況補足をしています。

ドイツのコロナ感染 現状やワクチン接種率について

ドイツのコロナ感染  現状やワクチン接種率について
中央はドレスデンの聖母教会<br />© DZT/ Francesco Carovillano

Q1.最初に、ドイツでのワクチン接種状況や観光産業の現状についてお聞かせください。

ドイツでは2回接種を終えた方は日本と同じくらいの65.6%、1回目を終えた方も68.8%となっています(2021年10月14日時点)。ドイツではウィズコロナという方向で舵を切っており、社会的制約、観光の動きは日本より先んじて進んでいます。
現在ドイツでは2G・3Gという感染対策が掲げられ、接種を終えた方にはアプリでの接種証明が発行され、活用されています。
2Gは2回のワクチン接種済み、または抗体ありを示し、3GはそれにPCR陰性証明が加わったものです。この証明書を提示することにより、レストランやバーでの飲食、宿泊、スポーツ観戦、飛行機への搭乗など、国内での行動規制が緩和されているのです。例えば、ホテルにチェックインする際はこの証明書の提示が必要になっています。このことにより、ドイツ国内の旅行はコロナ前の水準にまで、ほぼ戻ってきていて、フライトや鉄道の運行状況なども正常化してきているのです。
ただ、地域格差ははっきりしています。欧州域内の移動規制もあり、ドイツの人たちはまずは国内で過ごそうとして、どちらかといえば自然に多い場所が人気です。国内で人気のリゾート地、北部の海浜地域や南部の山岳地帯などは夏のシーズンにはコロナ前と変わらないくらいの来訪者がありました。一方でフランクフルトのような日本人もよく行く大都市はもともと約7割近くが外国からのお客様だったため、とても厳しい状況です。
会議や見本市といったイベントも開催されておらず、今秋から徐々に再開し始めていくところなので、ホテルの稼働率も低い状態が続いています。そこで、ドイツ国内や近隣諸国向けのプロモーションを展開しています。

Q2.マスク着用に関して、ルールなどは設けられていますか?

地域ごとに細かい差が出ているのですが、屋外ではマスク着用不要になっています。もともとオーストリアなどではマスクで顔を隠すことをあまりよしとしない風習もあります。ただ一部の方は着用していますね。

これからの観光と実施中のキャンペーン

これからの観光と実施中のキャンペーン
シュトゥットガルトのシュロスプラッツでのクリスマスマーケットの様子<br />© Stuttgart-Marketing GmbH (SMG)/ Frank Hörner

Q3.今後の観光戦略・ロードマップはどうお考えですか?

ドイツ観光局本局として、2013年の段階で2030年までの長期ビジョン・想定目標を立てています。公式発表として2030年には外国からの来訪客で1億2150万泊を達成することを目標としていて、実は2019年の段階ですでに約9000万泊を達成していたのです。コロナになる前までは毎年右肩上がりの数値で動いていました。現時点ではその目標に向かって進んでいくことを変更していません。
日本については、2020年秋の段階のマーケットリサーチに基づき、2023年には2019年(約120万泊)の数値のプラス4%=125万泊を達成するだろうと予測していました。残念ながらここ1年半は人の移動がほぼなかったのですが……。

指標(KPI)についてですが、ドイツ観光局は連邦経済エネルギー省が統括しており、現時点では宿泊数が最も重要な指標です。
もちろん、現地での消費額という考え方はあるのですが、富裕層旅行者をターゲットとしている地域を除き、主項目ではありません。
日本は以前、宿泊数ではTOP10に入っていましたが、今は17位。残念ながら全体の中での日本のシェアは落ちています。アジア地域を見れば中国が日本の3倍の数値を出しており、またアラブ諸国も滞在日数が長く、一人当たりの単価も高いのが実情で、ドイツ観光局本局としての重要マーケットとしてはこの2ヵ国となっています。そこで、私たちは日本のポジショニングを上げていくために、富裕層旅行者へのマーケティングを強化していきたいと考えています。

Q4.日本との交流再開に向けてのプランはいかがでしょうか?

欧州域内の移動は6月から再開しており、ドイツ国内を含め動いています。海外からは米国やアラブ首長国連邦などとは行き来が始まっています。日本は現時点で入国時の隔離義務を課さない国にリストされており、ドイツ側は歓迎しているのですが、日本側の規制が大きな壁になっています。

ドイツの地方都市に焦点をあてた「フィールグッド・キャンペーン」を開催中<br />© DZT/Julia Nimke
ドイツの地方都市に焦点をあてた「フィールグッド・キャンペーン」を開催中<br />© DZT/Julia Nimke

Q5.今後PRしたい新しいテーマはどういったことでしょうか?

ドイツ観光局としての全世界統一のグローバルキャンペーンを毎年本局が設定しており、国によりその重要度(優先順位)のレベルに違いがあります。例えば、ベートーヴェンの生誕250年だった2020年、日本は最重点マーケットでした。

2021年は以下の3つの大きなテーマを展開しています。

(1)「ジャーマン・ローカル・カルチャー」=ドイツの伝統文化・田舎の魅力の発信
(2)「フィールグッド・キャンペーン」=サステイナブルツーリズムにフォーカス
(3)温泉、保養地などをクローズアップする「スパ・トラディション」

日本では(1)の「ジャーマン・ローカル・カルチャー」を重点的に展開しています。日本人にとって、ドイツ・欧州の伝統文化・歴史文化はとても魅力的なもので、皆さんの興味・関心が昔からあるテーマです。今まで何度も展開してきたテーマですが、ここであらためて訴えていくことを考えてします。
現時点では需要を喚起させるイメージ訴求、インスピレーションキャンペーンがメインではありますが、規制緩和の状況を見ながら、「今すぐ行こう」「予約はこちら」というようなキーワードを入れ、実際の行動に結びつけていきたいのです。
デジタルでのプロモーションを6月から開始しており、LINEのチャットボットという仕組みを活用したものとTwitterで展開をしています。このチャットボットは好評でLINEの「お友だち」も4万人を超えました。当初は秋で終了予定だったのですが、今後も継続して展開していきます。LINEとTwitter、それぞれのユーザー分析をして、特性を生かしたプロモーションを行っていきます。

「フィールグッド・キャンペーン」はサステイナブルツーリズムキャンペーンです。欧州ではこのテーマが旅行先決定の重要なファクターになる地域がありますが、日本ではドイツのブランディングを上げていくために実施しております。「スパ・トラディション」は日本では(対象外のため)展開していません。2022年も「ジャーマン・ローカル・カルチャー」と「フィールグッド・キャンペーン」は引き続き継続し、さらに自然のテーマも加えて展開していく予定です。

すでにEU圏内の旅行は活発に行われているというドイツ<br />© DZT/ Francesco Carovillano
すでにEU圏内の旅行は活発に行われているというドイツ<br />© DZT/ Francesco Carovillano

Q6.主たる旅行者ターゲットは?

私たちがマーケット分析をし、いち早く復活すると想定しているのは20~40代の女性、旅行を楽しみにしているシニア層=60歳+、このふたつの層が最初のターゲットと考えており、この方々に届くメッセージを伝えていくことが重要です。
旅行のタイプではFITと少人数のグループ旅行に注目しています。個人手配旅行者を念頭にオンラインエージェントとのタイアップ。また、通常の旅行会社とは、来年春の旅行の本格再開を想定してツアー商品の企画をこれから考えていきます。この少人数のグループとは10名前後のツアーを想定しています。
先述した富裕層旅行者へのマーケティングにも着手します。ドイツの、国としてのイメージはとてもよく、2006年のサッカーワールドカップがそのイメージアップに貢献しました。国家ブランド指数(Anholt-GfK Nation Brands Index、2017年)では1位です。
一方で観光分野では10番目くらいで、まだまだブランディングが足りないと考えています。そこで、このターゲットに向けて、できることを見つけていきます。どうやったら文化的にも質が高い特別な演出が提案できるか。各地域の担当者やホテル、施設などのサプライヤーたちとアイデアを探っているところです。

Q7.ドイツでは、ワーケーションは行われていますか?

残念ながら、ドイツのプロモーションとしてはあまり有効とは見ていません。ご存じのようにドイツ人は余暇と仕事を完全に分けており、休暇がしっかりと取れる仕組みになっているため成立しないのではないかと考えています。もちろん注視はしていきます。

一方で修学旅行などを含む教育旅行については比較的早く戻ると予想しています。ドイツはSIT(Special Interest Tour)は伝統的に得意な分野です。この教育旅行のテーマのひとつとして、サステイナブルな社会、環境問題といった、ドイツが得意としているコンテンツを教育旅行として組み合わせていくことを進めています。
実はドイツではもともとゴミ分別や代替エネルギーといったことに社会が長く取り組んできていることから、サステイナブルは普通に使われている言葉なので、SDGsという単語はあまり使われていないのです。

おすすめの観光地は?

おすすめの観光地は?
ドレスデンのシュトリーツェルマルクト<br />© Landeshauptstadt Dresden, Amt für Wirtschaftsförderung/ Sylvio Dittrich

Q8.おすすめのデスティネーションはどこでしょうか?

この時期の風物詩でもある、クリスマスマーケットは今冬ほぼどこの町も実施予定です。入場にあたっては先述のアプリ提示が必要だったり、人数制限などもあると思います。
また、個人的にはドレスデンを長年推薦しています。冬の屋内でのアクティビティが充実していること、お城鑑賞やマイセン磁器、絵画、音楽などの文化資源が豊富であることがその理由で、日本人には絶対に気に行ってもらえるはずと自負しています。
東西統一というユニークな歴史を持つ、旧東側の代表的な街でもあります。街の様子がダイナミックに(苦難を越えてドレスデンがあること)変わったことも感じていただきたいですね。

もちろん、ロマンティック街道も外せません。日本の観光プロモーションではロマンティック街道を45年もやっていますが、残念ながらこれを超えるものは出てきていないのです。中世をイメージできるかわいらしく、おとぎ話に出てくるような街がリアルに存在しています。ローテンブルクは素敵だし、ノイシュヴァンシュタイン城があるアルプスの地域、文化的自然景観はどの季節に行ってもすばらしい。そしてなにより日本人が(再開後に)帰ってきたら現地の人たちに喜ばれ、心からの歓迎、ホスピタリティあるもてなしを受けられるはずです。

日本へのメッセージ

日本へのメッセージ
ドイツの人々はあなたを温かく迎え入れてくれるでしょう<br />© DZT/ Francesco Carovillano

Q9.読者の方へのメッセージをお願いします。

ドイツでは日本の方々がいつ戻ってきてくれるのか、ドキドキしながら待っています。もちろん心配なところ、不安は当然だと思います。
しかし、ドイツはすでに次のステップに移っています。2G・3Gといった取り組みによりワクチンを接種された方には、安心・安全が確保されています。ドイツのどの地域もコロナ禍で海外からの訪問者が激減してしまっているなか、どの国の人が最初に戻ってきてくれるのか、心待ちにしています。
そして日本の方が来ていただいた時、彼らは大歓迎をしてくれるはずです。日本政府の規制が緩和されてきた段階で、最初の旅先としてご検討いただく訪問地として、ぜひドイツを上位に考えてください。早く来訪していただけることを願っています。

写真提供:ドイツ観光局

■ドイツの観光情報
・ドイツ観光局: https://www.germany.travel/en/campaign/german-local-culture-jp/home
・Twitter: https://twitter.com/GermanyTravelJP

■地球の歩き方総合研究所
・URL:  http://www.arukikata.co.jp/research/report01.html

※当記事は、2021年11月12日現在のものです

筆者

地球の歩き方書籍編集部

1979年創刊の国内外ガイドブック『地球の歩き方』の書籍編集チームです。ガイドブック制作の過程で得た旅の最新情報・お役立ち情報をお届けします。

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