コソヴォとアルバニアの旅 Vol.2【コソヴォ】小さいながらも多様な文化。コソヴォに暮らす諸民族

公開日 : 2018年03月12日
最終更新 :
手で鷲のサインを作るアルバニア系の人々
手で鷲のサインを作るアルバニア系の人々

現在のコソヴォはアルバニア人が92%という圧倒的多数を占めていますが、セルビア人をはじめ、ほかの民族も暮らす多民族国家。ユーゴスラヴィアからの独立時は、民族紛争という悲劇を生み出しましたが、観光客もたくさん訪れるようになった現在では、多様な文化やお互いを尊重しながら暮らそうとする姿は、この地を旅する大きな魅力ともいえるでしょう。さまざまな民族の歴史や宗教、文化に注目すると、旅の奥行きがグッと広がります。

民族の誇りを胸に。コソヴォのアルバニア人

民族の誇りを胸に。コソヴォのアルバニア人
青地に国土と6つの星、コソヴォ国旗
赤地に黒い双頭の鷲、アルバニア国旗
赤地に黒い双頭の鷲、アルバニア国旗

コソヴォ国旗に見える6つの星は、アルバニア人、セルビア人、トルコ人、ボスニャク人、ロマ人、ゴラニ人の6民族を表しています。しかし、アルバニア人が圧倒的多数ということもあり、赤地に双頭の鷲を描いた同民族の隣国、アルバニアの旗を目にする機会も多いです。コソヴォに住むアルバニア人のほとんどはイスラム教徒といえますが、アルバニア人は宗教よりもアルバニア人であるという民族意識が優先されるともいわれています。

アルバニア系の人々が披露する楽しい民族舞踊
アルバニア系の人々が披露する楽しい民族舞踊
伝統的な民族楽器を使っての演奏
伝統的な民族楽器を使っての演奏

伝統的な家屋での夕食のときには、代々伝わる衣装に身を包んだアルバニア系の人々が歌と踊りで歓迎してくれました。イスラム教というと、男女が一緒に歌ったり踊ったりすることに厳しいイメージもありますが、コソヴォではそんなことはなく、男女が仲良く一緒に踊っていました。撮影をお願いすると、手で交差させて、アルバニアの国旗にある双頭の鷲のサインを作ってくれました。アルバニア人としての強い誇りを感じます。弦が1本のラフータと2本のチフテリは、いずれもアルバニアの民族楽器。歌も男女が一緒になって歌います。

伝統を守り続ける帽子職人のアフリムさん
伝統を守り続ける帽子職人のアフリムさん

アルバニアの民族衣装では、男性用の白いフェルト製の帽子、プリスが印象的です。今回伝統的なプリス作りをコソヴォ西部の町ペヤで見学することができました。フワフワした羊毛から固い卵のようなプリスを作るのは、かなり根気のいる作業。職人肌のアフリムさんは、昔ながらの手作業にこだわリ、16の工程をかけて丁寧に製作します。1日にできる工程は2〜3ほど。1週間で作ることができるプリスの数は20個ほどで、決して多くは作ることはできませんが、民族のシンボルともいえるプリスに対する矜持を感じました。

中世以来の文化を受け継ぐ。コソヴォのセルビア人

中世以来の文化を受け継ぐ。コソヴォのセルビア人
ロマネスク建築の影響を感じさせるヴィソキー・デチャニ修道院
内壁を埋め尽くすフレスコ画に圧倒させられる
内壁を埋め尽くすフレスコ画に圧倒させられる
至聖所の前に置かれた聖障、イコノスタス。木彫り細工が美しい
至聖所の前に置かれた聖障、イコノスタス。木彫り細工が美しい
普段はイコノスタスに隠れ、見ることができない至聖所内の様子
普段はイコノスタスに隠れ、見ることができない至聖所内の様子

コソヴォに住むセルビア人は現在、全体の5%にすぎませんが、中世のコソヴォはセルビア王国の中心として栄えており、この頃に数多くの教会や修道院が建てられました。その後セルビアはオスマン帝国との戦いに敗れ、この地にイスラム教徒であるアルバニア人が移住してくることで、だんだんとアルバニア人が多数になっていきます。しかし、この地にとどまるセルビア人も多く、自分たちの文化を大切に守ってきました。 セルビア人が残した文化遺産のなかでも、特に素晴らしいのがセルビア正教の修道院。コソヴォには世界遺産の教会と修道院が4ヵ所残っていますが、いずれも中世セルビア王国時代に建てられたものです。デチャニという町の郊外に建つヴィソキー・デチャニ修道院も、そのひとつ。内部は1000点を超すフレスコ画によって彩られ、さながら宗教美術館のようです。

分断された町、ミトロヴィツァのセルビア人地域
分断された町、ミトロヴィツァのセルビア人地域

ミトロヴィツァは、20世紀末に起きたコソヴォ紛争で、大きな被害を受けた町。そのため今でもイバル川に架かる橋を境に、北にセルビア人が、南にアルバニア人が分かれて住んでいます。両方の地区を見比べてみると、アルバニア人の住む方は、新たなビルなども建ち、発展する様子を感じましたが、橋を渡ったセルビア人側は、数多く掲げられたセルビア国旗が目を引くものの、全体としては投資が少なく、発展も遅れているようです。セルビア系住民のミロドラクさんに話を聞くと、セルビア側では工事は滞りがちで、問題も多いとのことです。ただし、10年前に比べると遙かによくなっていると付け加えることも忘れませんでした。以前は橋にバリケードが築かれ、スムーズな南北の往来を阻んでいましたが、そのバリケードも2014年には撤去されるなど、状況は少しづつですがよくなっています。今後より南北の交流が進み、ともに発展していくことを願わずにはいられません。

化粧に隠された苦労。ボスニャク人の花嫁

化粧に隠された苦労。ボスニャク人の花嫁
ほほやあごに描かれた円は運命の輪を意味している
化粧をしている横で合唱するおばあちゃん
化粧をしている横で合唱するおばあちゃん
化粧を終え、花嫁衣装に身を包む
化粧を終え、花嫁衣装に身を包む

少数民族ボスニャク人の花嫁の化粧がとてもユニークだということで、特別に再現してもらいました。化粧にかかる時間は約2時間。顔全体を白く塗り、さらに金色の線や丸、赤や青の点を加えていきます。色にはそれぞれ意味があり、金は豊かさ、赤は多産、青は健康を表すとか。化粧の最中に隣では、ふたりのおばあさんがときおり歌を歌います。内容は、嫁ぎ先の姑は意地悪だとか、元の家族には二度と会うことはできないとか…、花嫁を泣かすのが目的でしょうか。泣くと化粧が流れてしまうので、花嫁は我慢しなければいけません。嫁ぎ先で辛いことがあっても耐えられるようにと、わざと泣かすような内容を歌うそうです。さらに花嫁は式が終わるまで、食べたり、しゃべったりもできません。歌い手のおばあさんは、自身の結婚式の日を人生最悪の日だったと述懐していました。 昔の結婚は親同士が決めるため、当人はお互い顔を知りません。結婚前に顔がわかると不吉といわれ、式が終わるまで素顔を隠すためにこのような化粧をするのだそうです。近年は恋愛結婚が主流ですが、敢えて伝統的な化粧をして結婚式を挙げる人もいるそうです。

豪快なグリル料理なしにコソヴォのグルメは語れない!

豪快なグリル料理なしにコソヴォのグルメは語れない!
グリルの一皿盛りコンビニム・スカレとヨーグルトのアイラン

コソヴォでは、ひき肉を使ったグリル料理の店が目につきます。本格的なレストランにもありますが、テイクアウト専門屋台もあり、地元ではファストフードとしても一般的。小ぶりで俵型をしたケバパ、ハンバーグ状のクフテ、クフテの3倍くらいあるプレスカヴィツァなどがあり、そのほか串焼き肉のシシ・ケバパ、ソーセージのスジュクもグリル料理の定番です。屋台でなら指さしで注文、レストランではいろいろな種類を一皿に盛られたコンビニム・スカレを注文して、みんなでシェアするといいでしょう。グリル料理と相性ぴったりの飲み物は、ヨーグルト・ドリンクのアイラン。日本の飲むヨーグルトよりも濃度は薄めですが、ちょっぴり塩味が加わっています。日本ではあまり馴染みはありませんが、コソヴォでは肉といえばヨーグルトというくらいポピュラーな取り合わせです。

地球の歩き方A25「中欧」編集スタッフ 平田功

筆者

地球の歩き方書籍編集部

1979年創刊の国内外ガイドブック『地球の歩き方』の書籍編集チームです。ガイドブック制作の過程で得た旅の最新情報・お役立ち情報をお届けします。

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