こんな時だから、旅を語ろう:STORY.03『地球の歩き方』編集・ライター 水野千尋が語る「人生を充実させるオタクなひとり旅」

公開日 : 2021年09月01日
最終更新 :
『赤毛のアン』に憧れて訪れたプリンス・エドワード島
『赤毛のアン』に憧れて訪れたプリンス・エドワード島

2021年8月現在、まだまだ以前のように自由に海外旅行に行ける状態ではないが、だからこそ、今はゆっくり旅について語りたい!そんな思いで生まれた、「こんな時だから、旅を語ろう」企画。その一部として『地球の歩き方』を作る旅のプロフェッショナル達にインタビューを実施した。第三回は、『地球の歩き方』の中の人からフリーエディターに転身した水野千尋。前回に続きアフターコロナに注目を集めると予想されるキーワード「ひとり旅」をテーマに話を聞いた。

ウズベキスタンで現れた“ひとり旅気質”の片鱗

ウズベキスタンで現れた“ひとり旅気質”の片鱗
青が好きな彼女が惹かれたサマルカンドのレギスタン広場

水野千尋は新卒で株式会社ダイヤモンド・ビッグ社(現・株式会社地球の歩き方)に入社し、営業部門に配属されて香港・マカオやハワイを担当。5年半勤務した後にフリーランスとなり、『地球の歩き方 ラオス』、『地球の歩き方 東京』、『地球の歩き方aruco東京』などの編集・執筆を担当しているという経歴の持ち主。
幼少期にイギリスに住み、大学時代にボランティアでベトナム、フィリピン、カンボジアなどを訪れたこともある彼女。数々の旅を重ねた結果「ひとり旅が性に合っている」と実感したそうで、その理由を「オタク気質でいろいろ極めたくなりがちだから」と分析する。「興味のあることを自分のペースで追求したい。ひとり旅はそういう時間や行程のカスタマイズができるのが一番の魅力です。」

ウズベキスタンでの対外国人の言語はロシア語。この旅を機に勉強したと言う
ウズベキスタンでの対外国人の言語はロシア語。この旅を機に勉強したと言う

彼女が本格的にひとり旅を始めたのは大学3年生のとき。「海外ボランティアや友人とのバックパッカーデビューを経て、そろそろひとりでも行けるかなと思ったんです。本屋で『地球の歩き方 中央アジア』を読んだとき、世界史で習ったウズベキスタンのサマルカンドって旅行で行けるんだ!と知ったらいてもたってもいられず。ビザをとるのは大変だったけどなんとか旅立ちました。」思い立ったらすぐに出発できる身軽さはひとり旅の利点だ。

日本に興味津々の地元の学生たちと
日本に興味津々の地元の学生たちと

サマルカンドに到着した彼女は、徐々に“ひとり旅気質”である片鱗を見せる。サマルカンドといえばレギスタン広場が有名だが、「あまりに感動して毎日何時間もぼーっと眺めていたんです。全然飽きなかったなぁ。」こういった時間の使い方は誰かと一緒だとかなり難しい。また、ひとり旅だと現地の人から声をかけられやすくなり、より深くその土地の性格に触れられるようだ。「日本文化に興味のある学生が結構いて、『大学で日本語を勉強しています』とか、『黒澤明の映画が大好きです』とか話しかけられるんです。意外と人懐っこい人が多いんですよね。しかも怪しい感じじゃなくて純粋に興味があって話しかけているのが伝わってくるんです。」

ジェフリー・バワのホテルでアフタヌーンティー。スリランカで紅茶オタクに

ジェフリー・バワのホテルでアフタヌーンティー。スリランカで紅茶オタクに
ヌワラエリヤやキャンディなどスリランカはお茶の産地として有名(Photo by iStock)

ひとり旅に“オタク要素”が入り始めたのは、社会人になって訪れたスリランカの旅から。「ジェフリー・バワの建築、アーユルヴェーダ、紅茶の3つが目的の旅でした。」と話すが、最も情熱を感じたのは紅茶。「滞在したホテルのひとつは、紅茶の産地として有名なヌワラエリヤにある『ジェットウイング・ セント・アンドリュース』。イギリス植民地時代の邸宅を改装したクラシカルなホテルでとても素敵な雰囲気なんです。特にコロニアル洋式の建物と広々としたイギリス式庭園が人気なんですが、そこでハイティー(アフタヌーンティー)を満喫しました。滞在中は、キャンディという街にも足を延ばして、行く先々で紅茶やカラフルな茶器を買っちゃいました。」

スリランカには紅茶局という組織があるほど、国を挙げて紅茶への意識が高い
スリランカには紅茶局という組織があるほど、国を挙げて紅茶への意識が高い

元々興味のあった紅茶だが、スリランカでさらにスイッチが入ったよう。「紅茶のことをもっと知って、そのときの気分で飲み分けられたらかっこいいなぁと思って、帰国後にリプトンが主催する銀座の紅茶教室に通いました。紅茶の淹れ方を教わったり飲み比べをしたり、アイスティーやアレンジティーの作り方を習ったり、紅茶の歴史を学んだり。」その甲斐あって、今では産地ごとの特徴や味が分かるようになってきたそうだ。教室には年配の方も多く通っているのを見て「私も生涯通じて楽しくゆっくり学んでいきたいな」と思ったと話す。

赤毛のアンの世界に浸るプリンス・エドワード島コスプレ旅

赤毛のアンの世界に浸るプリンス・エドワード島コスプレ旅
欧米人や日本人から声をかけられるほど、アンになり切っていた

紅茶にハマったスリランカの後に訪れたのはカナダだが、また違った意味でのオタク旅だった。目的は物語の聖地巡礼だ。「昔から『赤毛のアン』が大好きなんです。小説は全巻持っていて、今でも定期的に読み返しているくらい。」翻訳された美しい言葉や想像を掻き立てる情景描写に力をもらうのだそう。つまり、『赤毛のアン』はいわば彼女の人生のバイブル。「作品の舞台になったカナダのプリンス・エドワード島に行ってみたくて、現地には日本人が運営しているPEIセレクトツアーズという旅行会社があり、『赤毛のアン』ツアーがあったので申し込んで、ゆかりの地を巡りました。しかもアンの格好をして!今じゃ恥ずかしくてできないけど、当時はなぜか平気だったんですよね。周りもみんな同じ熱量でアンの世界を楽しんでいたからかな?どこかで『旅の恥はかき捨て』みたいな開き直りがあったのかもしれませんね。」

アンが通った大学のモデルとなったダルハウジー大学(Photo by iStock)
アンが通った大学のモデルとなったダルハウジー大学(Photo by iStock)

『赤毛のアン』ファンはアンが少女期を過ごしたプリンス・エドワード島を巡るのが一般的だが、彼女はさらにアンの成長を追っている。「アンはカナダ本土のレドモンド大学で学んでいて、そのモデルとなったのがハリファックスという街にあるダルハウジー大学。バスで5時間くらいかけて行き、夏季限定で一般に開放されていたダルハウジー大学の寮に宿泊しました。」さすがにハリファックスでは他の『赤毛のアン』ファンには会わなかったようなので、彼女は『赤毛のアン』オタクの上級者だと言っても過言ではなさそうだ。

『赤毛のアン』の作者、モンゴメリのいとこの子孫と
『赤毛のアン』の作者、モンゴメリのいとこの子孫と

プリンスエドワード島でこそ現地のツアーに申し込んだ彼女だが、その理由は「ひとりでは行けないところにも行ける内容だったから。」ツアーでは、グリーン・ゲイブルス博物館に行き、作者ルーシー・モード・モンゴメリの子孫に話を聞くことができた。そして、ツアーに参加したとはいえ、移動時間は基本的にひとり。「小説を全巻持参していたので、読み返しながら『ここがあのシーンの場所かぁ!』と思いを巡らせていました。ひとりでおとなしく黙っていても頭の中は忙しいんですよ。」

アンが暮らしたグリーン・ゲイブルスを再現(Photo by iStock)
アンが暮らしたグリーン・ゲイブルスを再現(Photo by iStock)

今やひとつの旅のあり方としてメジャーになった聖地巡礼。アニメやドラマなどの映像と異なり、文学での聖地巡礼は想像と異なることもありそうだが、「ほぼ想像通りでした。」と、ギャップはなかったよう。「特に自然の風景は、物語の世界そのままでした。深い森の緑もきれいだったし、灯台も自然にとても馴染んでいて情緒がありました。アンの住むグリーン・ゲイブルス(緑の切妻屋根の家)も残っていたし。あ、小説だから再現ですね。」と、再現されたものも違和感を感じさせないほどリアリティがあったようだ。

ミュージカルとアガサ・クリスティーを追いかけるイギリス旅

ミュージカルとアガサ・クリスティーを追いかけるイギリス旅
幼少期イギリスに住んでいた頃の写真

「今、気づいたんですが、スリランカも、カナダも、あと仕事で携わった香港も、私が好きになる国や街のほとんどにイギリスが関係していますよね。全然意識していなかったけど、好きなものって変わらないのかも。」その根底には幼少期をイギリスで過ごした影響があるのかもしれない。
イギリスには大人になってからも何度も訪れているそう。紅茶も楽しむが、一番の目的はミュージカルで、これもオタク級だ。「これこそ絶対にひとりがいいと思う旅かもしれません。もし友達と行くなら、滞在中に有名な演目を1回くらい観るという展開はあるかもしれないけど、私はそれだけじゃ満足できなくて。さまざまな演目の昼と夜の公演を組み合わせて、何日も観続けたいんですよね。でも、同じ熱量の人ってなかなかいないですし……。」

ヴィクトリア・パレス・シアターの前にて
ヴィクトリア・パレス・シアターの前にて

「実は、去年の7月もミュージカル行脚のイギリス旅を予定していたんです。コロナで行けなくなってしばらくショックを引きずりましたね……。好きな演目が立て続けに上演される予定だったし、好きな役者さんが演じるはずだったのに!特に『Sister Act(邦題:天使にラブソングを)』では、映画で主演を努めたウーピー・ゴールドバーグが、ロンドンのステージで同じ役を演じるすごく珍しいケースだったんです。あと『ヘアスプレー』では、10年前にロンドンで観たときのキャストが出る予定だったから絶対に観たかった。ほかにもムード満点のハー・マジェスティーズ・シアターで観る『オペラ座の怪人』や、アメリカ建国にまつわるミュージカル『ハミルトン』とか……。」聞いているだけでかなりの演目数。しかも「その時しか見られない」という生の舞台だからこその貴重さが伝わってくる。

アガサ・クリスティーが生まれた港町トーキー(Photo by iStock)
アガサ・クリスティーが生まれた港町トーキー(Photo by iStock)

目的はミュージカルだけかと思いきや、「実はアガサ・クリスティーオタクでもあるので、ミュージカルとアガサの二段構えの旅の予定でした。」と、ここでも聖地巡礼の話に。「小説の舞台になることが多いイギリス南部へ行くつもりで。作者の故郷でもあるデヴォンシャー州のトーキーという街にも行こうと思っていました。」アガサ・クリスティーは言わずと知れた“ミステリーの女王”。「作品すべての舞台を訪れてみたい。」と彼女は言うが、その作品数を考えるととてつもない数になることは想像に難くない。「イギリス以外の場所もありますしね。『ナイルに死す』だとエジプトまで行かなきゃだし。きっと一生かけて行くのかな。」
紅茶にしても、大好きな小説の聖地巡礼にしても、観劇にしても、追求すればするほど完結することはできない。奥深い世界だからこそ、水野さんは人生を通して知識欲を満たすオタクなひとり旅を続けていくのだろう。

<プロフィール>
水野千尋(ミズノチヒロ)
1988年生まれ。フリーエディター兼ライター。「地球の歩き方」の広告営業を経て、退社後は『地球の歩き方 ラオス』、『地球の歩き方 東京』、『地球の歩き方aruco東京』、『スペイン旅行最強ナビ(辰巳出版)』などの編集・執筆を担当。また、映像監督兼ベーシストの夫が代表を務めるART LOVE MUSICのサポート業も行う。

※当記事は、2021年9月1日現在のものです

〈地球の歩き方編集室よりお願い〉
2021年9月1日現在、海外への日本からの観光目的の渡航はできません。渡航についての最新情報、情報の詳細は下記などを参考に必ず各自でご確認ください。
◎外務省海外安全ホームページ
・URL: https://www.anzen.mofa.go.jp/index.html
◎厚生労働省:新型コロナウイルス感染症について
・URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

筆者

地球の歩き方書籍編集部

1979年創刊の国内外ガイドブック『地球の歩き方』の書籍編集チームです。ガイドブック制作の過程で得た旅の最新情報・お役立ち情報をお届けします。

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