過去から今へと受け継がれる、奄美大島の伝統文化

公開日 : 2022年05月16日
最終更新 :
大島紬は緻密な設計に基づき、数多くの工程を経て完成する
大島紬は緻密な設計に基づき、数多くの工程を経て完成する

いつもの旅にSDGsの視点を――。SDGsとは持続可能な開発目標のこと。近年、観光分野でもSDGsを取り入れた、レスポンシブルツーリズム(環境への負荷を考え、責任を持って旅をする)という考え方が注目されています。世界自然遺産に登録された島々の自然や人々の暮らし・文化などを、この先、子どもや孫の世代まで残すには何をすべきなのか?今回は奄美大島の1300年以上の歴史を持つ大島紬や、島で愛され続ける島唄など、未来に紡いでいくべき奄美大島の伝統文化について紹介します。

1300年以上の歴史を持つ大島紬に触れる

1300年以上の歴史を持つ大島紬に触れる
丈夫で軽く、着ると温かい。大島紬は最上の日常着とされていた

奄美大島を代表する伝統文化といえば大島紬。その歴史はなんと1300年以上にもなり、ペルシャ絨毯やゴブラン織りと並んで世界三大紬のひとつに数えられています。高密度の絹織物は美しいだけでなく、軽くやわらか。着物がまだ日常着だった1973年には28万反を生産し、日本各地のデパートでも人気を博していました。しかし近年の生産量はわずか4700反程度。生活様式の変化に加え、複雑で緻密な工程を経て織り上げられる大島紬はまさに職人技。需要が少なくなるなか、継承する人も年々減少しているのが実情です。この大島紬について知ることができるのが、大島紬発祥の地、龍郷町にある「大島紬村」です。

泥田で糸を染める泥染め。体力と根気のいる作業だ
泥田で糸を染める泥染め。体力と根気のいる作業だ

大島紬の製造は一貫して手作業で行われます。糸を部分的に染め残すための締め糸をしたあと、山に自生するシャリンバイを煮出した染め液で染め、それを泥田で揉み込むと、鉄分とタンニンが結びつき褐色に変化します。これが深い黒色に変化するまで、シャリンバイ染めを約80回、泥染めを5回、およそ1ヶ月かけて繰り返し、ようやく糸の完成。手間も時間もかかる工程ですが、これが化学染料では出せない、大島紬独特の漆黒の発色となるのです。使ううちに多少の色落ちはありますが、ある程度の色落ちのあとは安定し、そこからはほぼ色あせすることはありません。

図案通りの柄にするために、ひとつのミスも許されない
図案通りの柄にするために、ひとつのミスも許されない

染められた糸はその後、織り子さんによって織り上げられます。模様の入った絣糸を織機にかけ、縦横に組み合わせていくと柄が浮き上がります。複雑な柄に仕上げるにはかなりの技術は必要で、熟練の織り子でも1反(幅約36㎝、長さ約12m。着物1着分相当)織り上げるのに40~50日かかるといいます。実は大島紬には裏表がありません。表面がくたびれてしまったら、裏返して仕立て直して着ることができるのです。大島紬はそもそもが丈夫な織物。さらに丁寧に仕立て直せば、親子三代、100年はゆうに使えると言われています。

「大島紬村」は、約5万㎡の広大な敷地に大島紬の生産工場や亜熱帯の植物が茂る庭園をもち、ガイドの案内で製造工程を見学したり、泥染めや手織りを体験することができます。実際に自分の手で染めたり織り上げてみると、感動もひとしお。一着の着物がいかに複雑で緻密な工程を経てできあがるかを実感できます。
併設のショップでは、大島紬を用いた製品が手に入ります。着物以外にも、バッグや帽子、シュシュなど手頃なものもあり、気軽にファッションに取り入れることができますよ。
1300年もの間、連綿と受け継がれてきた島の宝、大島紬。実際に触れればそのかけがえのない美しさと価値に気づくことでしょう。

■大島紬村
・住所: 鹿児島県大島郡龍郷町赤尾木1945
・電話: 0997-62-3100
・営業時間: 9:00~17:00
・定休日: なし(12月31日、1月1日は休み)
・アクセス: 奄美空港から車で約20分
・料金: 製造工程見学 大人550円、子供220円
     泥染体験 ハンカチ 1320円~、Tシャツ2200円~
・URL: http://www.tumugi.co.jp/

※新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、営業時間が変更になる場合があります。詳しくは公式ウェブサイトで確認してください

古きものと新しきものの融合。大島紬の新しい形

古きものと新しきものの融合。大島紬の新しい形
良質な革と大島紬を用いたアイテムは美しくかつ機能的

伝統的な大島紬に、新たな息吹を吹き込んだ職人もいます。名瀬の老舗呉服店「川畑呉服店」の一角に店を構える「紬レザーかすり」。小さな店には大島紬と革製品を、色使い豊かに大胆に組み合わせた小物が並びます。工房で作業をするのは川畑裕徳さん。デザインから制作まですべてひとりで手がけています。
川畑さんは呉服屋の息子として生まれましたが、若い頃は大島紬には興味がなく、上京した後は世界放浪の旅へ。オーストラリアで出合った伝統楽器と現代音楽の競演に衝撃を受けたといいます。

川畑裕徳さん。すべて手作業なので数ヶ月待ちということも
川畑裕徳さん。すべて手作業なので数ヶ月待ちということも

古きよきものと新しいものの融合。ふと思いついたアイデアを具現化するべく、工房を立ち上げました。最初は苦労もありましたが、コツコツと作り続けるうちにやがてクチコミでファンは全国に。オーダーメイドにも対応し、お客さんの要望に沿って一つひとつ精魂こめて仕上げます。そうして生まれた製品はお客さんの手元へ渡ったあと、修理のために“里帰り”してくることも多いそう。「お客さんが大切に使ってくれてるんだなと思うと、とてもやりがいを感じますね」と川畑さんは言います。
なかでも特に嬉しかったのは、島の若者が二十歳になったときの記念にと、海外のハイブランドではなく、「紬レザーかすり」でお財布を購入してくれたことだそう。
島の若者たちが島の伝統文化を繋いでいく。大島紬の行く先に、優しい光りが灯されたように感じます。

■施設名 紬レザーかすり
・住所: 鹿児島県奄美市名瀬港町3-16
・アクセス: バス停商工会議所前から徒歩2分
・URL: https://kasuriamami.base.shop/

※新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、営業時間が変更になる場合があります。詳しくは店舗に確認してください

連綿と歌い継がれる島唄のメロディーとリズムに身を委ねる

連綿と歌い継がれる島唄のメロディーとリズムに身を委ねる
吟亭の女将と飛び入り参加の女の子が唄を奏でる

奄美の集落(シマ)の文化のひとつに、古くから歌い継がれてきた島唄があります。行事やお祝いの場で歌われるほか、男女が即興で掛け合いをし「歌遊び」で心を伝えあったとか。歌われるのは奄美の自然や日々の生活、そこから生じる思いを込めたもの。そのリアリティある歌詞と、裏声を多用した独特の歌唱法と哀調のあるメロディが、聞く者の胸を揺さぶります。

島唄に欠かせないのがニシキヘビの革が貼られたサンシン(三味線)とチジン(島太鼓)。これらの楽器とともに歌われます。島唄の名手は「唄者(うたしゃ)」と呼ばれますが、古くから奄美大島の唄者は、歌うことが仕事ではなく、本業の仕事を持ちながら歌っていました。大島紬の織り手、腕利きの船大工、料理人…、職業はさまざまですが、日々の暮らしのなかから紡ぎ出した歌詞やメロディだったからこそ、より人々の心に響くのかもしれません。

奄美の伝統文化や暮らしなどを展示する奄美パーク © K.P.V.B
奄美の伝統文化や暮らしなどを展示する奄美パーク © K.P.V.B

そんな島唄を聞くならまずは「鹿児島県奄美パーク」に行ってみるといいでしょう。広大な敷地のなかに、奄美の自然や文化などがパネルや映像でわかりやすく展示されています。一角には島唄のコーナーがあり、島唄の代表的な曲を聴くことができます。

■奄美パーク
・住所: 鹿児島県奄美市笠利町節田1834
・電話: 0997-55-2333
・アクセス: バス停奄美パーク下車すぐ
・時間: 9:00~18:00(7、8月は~19:00)
・定休日:  第1、第3水曜(祝日の場合は翌日、4月29日~5月5日、7月21日~8月31日、12月30日~1月3日は開園)
・入館料  奄美の郷 大人310円、高校生・大学生220円、小・中学生150円
・URL: https://amamipark.com/

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吟亭の島唄ライブ。生で聴く島唄は迫力が違う
吟亭の島唄ライブ。生で聴く島唄は迫力が違う

もっと深く島唄の魂に触れたいならば、民謡酒場以上の場所はありません。名瀬市内には数軒の民謡酒場がありますが、なかでも「島料理 吟亭」はおいしい郷土料理を味わいながら、奄美民謡大賞受賞歴のある松山美枝子さんの唄が聴ける人気のお店です。

料理はコースのみ。ていねいに作られた島料理を味わっているとライブが始まります。最初は松山さんの歌声に聞き入っていたお客さんも、最後はリズミカルな六調の調べとともに、賑やかに皆で踊ります。ときには島唄を習う近所の子供が飛び入り参加をすることも。こうして、唄い継がれていく奄美の島唄を聴き、参加するのも、旅人ができる奄美の大切な文化を守る方法のひとつです。

■島料理 吟亭
・住所: 鹿児島県奄美市名瀬金久町6-2
・電話: 0997-52-9646
・アクセス: バス停ウェストコート前から徒歩2分
・営業時間:18:00~22:00(要予約)
・定休日:不定休
※新型コロナウイルス感染症の防止拡大のため、営業時間が変更になる場合があります。必ず店舗にご確認ください。

※当記事は、2022年4月26日現在のものです

ディレクション: 曽我 将良
編集: 株式会社アトール
協力: 公益社団法人鹿児島県観光連盟

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筆者

地球の歩き方観光マーケティング事業部

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