イギリス【本場】エジンバラ市内から最短のスコッチ・ウイスキー「グレンキンチー蒸溜所」ツアー見学

公開日 : 2021年11月14日
最終更新 :
グレンキンチー蒸溜所のエントランス
グレンキンチー蒸溜所のエントランス

イギリスにはショートブレッドや伝統衣装キルトのタータン・チェック柄、ゴルフなど、スコットランド発祥のものが数多くありますが、それでもスコットランドと言われてパッと思い浮かぶものは、ウイスキーではないでしょうか。2021年10月に、「グレンキンチー蒸溜所」を訪れたので、蒸溜所見学ツアーについてレポートします。

レンタカーの借り方と注意点

レンタカーの借り方と注意点
海外でレンタカーを借りるときは諸手続きに注意

ウイスキーには、ほかに日本を含めたアメリカ、アイルランド、カナダのものが「世界5大ウイスキー」と呼ばれ、スコットランドのものはスコッチ・ウイスキーといいます。その語源はスコットランドで話されている言葉のひとつである、ゲール語で「生命の水」を意味する「ウシュク・ベーハー(Uisge Beath)」だといわれています。
ウイスキー愛好者から「聖地」と呼ばれているアイラ島など、離島にあるスコッチ蒸溜所も魅力的ですが、交通の便で躊躇してしまいそうです。その点、「グレンキンチー蒸溜所(Glenkinchie Distillery)」は気候もおだやかな首都、エジンバラ市内からもっとも近い場所にあり、気軽に訪れることができます。「エジンバラ・モルツ」と呼ばれるスピリッツをつくっているのも特徴です。

エジンバラ市内には、名の知れたウイスキー博物館があり観光客でにぎわっていますが、グレンキンチーは実際にウイスキーがつくられている蒸溜所で、製造工程などを間近に見ることができます。イギリスでは首都ロンドンを含むイングランドで2021年7月に、スコットランドでも8月9日より、新型コロナウイルス感染対策の規制がほぼ撤廃されました。
それでも、蒸溜所見学を催行しているかについては不確実なところもあるので、ツアー内容などを事前にウェブサイトでよく確認することをおすすめします。

グレンキンチー蒸溜所は、エジンバラから東に20kmほどのロージアン地方に位置しており、シャトルバスのサービスもありますが、今回はレンタカーを手配しました。その際にちょっとしたトラブルがあったので、以下に紹介します。
まずは車を借りる際に、パスポートを求められたこと。通常、国内旅行では携帯しませんが、念のためにと持参したものが、こんなところで役立ちました。さらには、英国在住者は国民保険番号のNIナンバーまで求められ、こちらは迂闊でした。この番号で過去の事故履歴などを調べるようで、提示できない場合は手間賃として追加で£50と、実にレンタル料の半額分もチャージされ、痛い勉強代となりました。
パスポートに関しては、なぜか帰りの航空会社チェックイン・カウンターでも求められ(往路は不要だった)、海外においてはたとえ国内移動でも、飛行機を利用する際は、パスポートを常時携帯しておくのが無難そうです。

プライベート・ツアーで学ぶグレンキンチーの歴史

プライベート・ツアーで学ぶグレンキンチーの歴史
改装してモダンにリニューアルした館内

朝11時、蒸溜所の受付にてツアー参加者が全員揃ったところで、鐘が鳴らされました。この日は総勢11人とさほど多くないので、慌てずゆっくりまわれそうでした。入館時の手指消毒に加えマスクも着用し、完全装備でいよいよウイスキーの旅へと出発です。タータン・チェックのベストを粋に着こなした、スコットランド紳士のウィルさんが案内役です。

驚いたことに、彼ははじめに皆で自己紹介をしたあと、参加者全員の名前をきちんと覚え、随所で名前を呼びかけてくれました。サービス業の鑑とも言え、こういったところが大型観光施設では味わえない魅力のひとつだと、つくづく実感します。小さな差異が、大きな魅力となります。

黄金色に輝くジョン・ウォーカー氏がお出迎え
黄金色に輝くジョン・ウォーカー氏がお出迎え

ツアーが始まり、まずはグレンキンチー蒸溜所の歴史や業務内容についての講義を受けます。ひとつめの部屋に入って真っ先に目にするのが、世界的に有名なスコッチ・ブランド、「ジョニー・ウォーカー」の創始者である、ジョン・ウォーカー氏の像。
シルクハットに手をやり、燕尾服でステッキを片手にさっそうと歩く姿が、ブランドのアイコンとしてウイスキーのラベルになっています。エジンバラ市内でも町のあちこちで、看板や壁絵などを頻繁に見かけることになりますが、像、それも黄金色とは珍しいです。

ジョニー・ウォーカーは、複数の蒸溜所の原酒を混ぜてつくられるブレンド・ウイスキーであり、グレンキンチーはその原酒を提供している蒸溜所のひとつです。
1825年、農民であったレイト兄弟は原点となるミルトン蒸溜所を建て、1837年に現在のグレンキンチーに改名しました。途中、売りに出され一時は関係のない製材所になるなど、紆余曲折を経ましたが、1880年にはグレンキンチー蒸溜所として復活、第二次世界大戦中、ほかの蒸溜所が操業停止に追い込まれるなか、影響を受けずに操業を続けることができました。

現在はイギリスの大手酒造企業であるディアジオ社の傘下にあり、その主力製品であり、世界でもっとも普及しているスコッチ、「ジョニー・ウォーカー」のブランドを支えています。

製造工程の見学「強烈な刺激臭」

製造工程の見学「強烈な刺激臭」
蒸溜機は2機と少ないが、容量はスコットランド最大級を誇る

社史を頭に入れたあとは、実際にウイスキーをつくっている現場の見学です。スコッチといえば、香りづけに使われる泥炭「ピート」の存在が欠かせません。上を向くと、麦芽を置いて下からピートを焚く天井が、当時のままに残されていました。こちらは現在使われておらず、展示用とのことです。

ウイスキーの原料は麦芽、モルト。途中まで、ビールの工程と同じだとウィルさんが説明してくれました。麦と水を混ぜて糖化、ビール状になった麦汁を発酵させ、そのもろみをポットスチルと呼ばれる、銅製の蒸溜機に入れます。それを2度蒸溜し、最後は樽に入れて熟成させます。

麦汁を発酵させている発酵槽
麦汁を発酵させている発酵槽

実際に、これらの過程をすべて見学することができるのですが、いちばん始めの麦芽に湯を投入し、糖化させている糖化槽(Mush Tun)、そして発酵エリアに1歩足を踏み入れると、強烈な臭いが鼻を突き抜けました。
これまで嗅いだことのない刺激臭……正直、クサい……。

巨大な蓋つきの発酵槽(Washback)の見かけは、日本酒をつくる木桶と似ています。ビールの糖化槽もいく度か見学したことがありますが、どれもこのような強い臭いはなく、驚きました。
軟水を使うことが一般的であるなか、グレンキンチー蒸溜所は地元で湧き出る硬水が使われているそうですが、それが原因かどうかは定かではありません。ウイスキーが納豆と同じ、発酵食品の一種であることを思い出させてくれるコーナーです。

熟成樽「魅惑の香り」<br />

熟成樽「魅惑の香り」<br />
熟成室でのみ、マスクを外して説明をする名ガイドのウィルさん

ツアー最後の締めくくりは、ズラリと並んだ熟成樽の見学です。ウイスキーは新品の木樽、あるいはバーボンやワインなど、すでにほかの酒を熟成するために使われた樽を使用し、それによって味の個性が生まれます。
糖化時の臭いとは違い、こちらの暗室では甘い「よい匂い」が充満しています。このときばかりは、ツアー客もマスクを外してよいとの指示がウィルさんより出されました。さらには樽の蓋を開けて、ひとりずつ順番に匂いを嗅ぐこともできました。

お待ちかねの試飲タイム

お待ちかねの試飲タイム
飲食ができるカフェ・バーのカウンター

伝統的なビクトリア朝の赤レンガ造りが特徴のグレンキンチー蒸溜所は、昨年2020年に巨額を費やし、内部を全面改装しました。そのおかげで館内は、受付から飲食できるバー・エリアまで、どこもモダンでピカピカです。

熟成期間によって変化するスピリッツの色
熟成期間によって変化するスピリッツの色

複数ある試飲ルームも、オレンジ色の照明に包まれ、おしゃれで落ち着いた雰囲気です。各席にはそれぞれグラスに入った3種のウイスキーが注がれ、運転者には持ち帰り用の小瓶が、子供にはジュースが提供されます。
正面の壁には「フルーティー」、「スパイシー」などと書かれた、カラー・チャートならぬ、円型の味覚表が掲示され、はじめはロックで、次に水を数滴垂らして、どのような味の変化が起こるかを皆で自由に話し合います。

試飲するツアー参加者たち
試飲するツアー参加者たち

ツアーも終盤。名ガイドのおかげで参加者とも和気あいあい、楽しいひとときを共有できました。そのあとはバー・エリアに移り(試飲中のドリンク持ち込み可)、解散です。

蒸溜所限定ウイスキーや、グッズが買えるみやげショップ

蒸溜所限定ウイスキーや、グッズが買えるみやげショップ
オリジナルブレンドができるウイスキー販売セット

グレンキンチー蒸溜所のスピリッツは、ジョニー・ウォーカーなど、ほかのブランドに原酒として提供されることがほとんどで、シングル・モルトとしての販売はごくわずかです。
一般的に流通している公式ラインアップは12年もののみですが、受付横のショップでは、年数表示なしのほかの種類や、6000本限定リリースの小瓶など、蒸溜所でしか入手できないものも置いてあります。

ぜひとも試したい、ここでしか手に入らないウイスキーの小瓶
ぜひとも試したい、ここでしか手に入らないウイスキーの小瓶

イニシャル・ロゴ入りのトートバッグや衣服、小物なども上質で洗練されたデザインです。原酒を自分で瓶に詰めて持ち帰るサービスもあり、ウイスキー好きにはたまりません。

今回参加したツアーは1時間半で3種類を試飲するものでしたが、そのほか倍の6種類を試飲できる夜のコースや、エジンバラ市内中心部より、シャトルバス送迎つきのプランなどもあります。
冒頭でも触れたとおり、スコットランドのウイスキー蒸溜所と言えば、さらに北部の離島までフェリーで苦労して行くなど、たどり着くだけでもたいへんな場所もあります。一方でグレンキンチー蒸溜所はエジンバラから日帰り、短時間で参加することができ、短い旅行で蒸溜所を見学したい人には非常に便利です。
内部は全面撮影禁止のところも多いなか、写真が撮り放題な点もうれしいです(本記事の写真は、すべて掲載許可を受けています)。

新型コロナ収束後ご当地ならではの、スコットランドらしい体験をされたい方にも、いち押しの観光施設です。

■グレンキンチー蒸溜所(Glenkinchie Distillery)
・住所: Pencaitland, Tranent, Scotland EH34 5ET スコットランド
・ツアー時間: 毎日10:00〜17:00(12月24日のみ16:00閉館)休館日12月25日、26日、元旦
・ツアー料(1.5時間): 大人(18歳以上)£13、子供(8〜17歳)£6.5
・アクセス: エジンバラ市内より車で約40分(シャトルバスつきプラン有り)
・URL: https://www.malts.com/en-gb/distilleries/glenkinchie

※当記事は、2021年11月5日現在のものです

〈地球の歩き方編集室よりお願い〉
2021年11月現在、観光目的の海外渡航は難しい状況です。『地球の歩き方 ニュース&レポート』では、近い将来に旅したい場所として世界の観光記事を発信しています。渡航についての最新情報は下記などを参考に必ず各自でご確認ください。
◎外務省海外安全ホームページ
・URL: https://www.anzen.mofa.go.jp/index.html
◎厚生労働省:新型コロナウイルス感染症について
・URL: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
旅したい場所の情報を入手して準備をととのえ、新型コロナウイルス収束後はぜひお出かけください。安心して旅に出られる日が一日も早く来ることを心より願っています。

筆者

イギリス特派員

パーリーメイ

2017年よりロンドン南部で家族と暮らしています。郊外ならではのコスパのよいレストラン、貴族の邸宅、城めぐり、海沿い情報などが得意です。

【記載内容について】

「地球の歩き方」ホームページに掲載されている情報は、ご利用の際の状況に適しているか、すべて利用者ご自身の責任で判断していただいたうえでご活用ください。

掲載情報は、できるだけ最新で正確なものを掲載するように努めています。しかし、取材後・掲載後に現地の規則や手続きなど各種情報が変更されることがあります。また解釈に見解の相違が生じることもあります。

本ホームページを利用して生じた損失や不都合などについて、弊社は一切責任を負わないものとします。

※情報修正・更新依頼はこちら

【リンク先の情報について】

「地球の歩き方」ホームページから他のウェブサイトなどへリンクをしている場合があります。

リンク先のコンテンツ情報は弊社が運営管理しているものではありません。

ご利用の際は、すべて利用者ご自身の責任で判断したうえでご活用ください。

弊社では情報の信頼性、その利用によって生じた損失や不都合などについて、一切責任を負わないものとします。