スペインで最もスペインらしい州、カスティーリャ・イ・レオンの旅 Vol.2 サラマンカ

公開日 : 2018年08月24日
最終更新 :
青い空と、青い清流に囲まれた古都サラマンカの遠景
青い空と、青い清流に囲まれた古都サラマンカの遠景

今回訪れたのは、ヨーロッパでも有数の歴史を誇るサラマンカ大学を擁する、中世の町サラマンカ。カスティーリャ・イ・レオン州Castilla y Leónの西部に位置しています。学問の中心地として、そして「もっとも正当なスペイン語」が話される場所を目指して、世界中から学生が集まってきます。城壁に囲まれた町のほぼ全域が世界遺産に指定されていて、石畳の道のどこを歩いても中世の雰囲気を味わえます。

そして、ここは美食の町でもあります。郊外にスペイン有数の生ハムの産地をもち、生ハムをはじめとしたタパスを味わえます。学生街なので、比較的安い料金で楽しめることもこの町の魅力です。

ローマ橋を渡った先は、町がまるごと世界遺産のサラマンカ

ローマ橋を渡った先は、町がまるごと世界遺産のサラマンカ
紀元2世紀にイベリア半島出身のトラヤヌス帝が橋を建設

サラマンカの南側を流れるトルメス川には、ローマ帝国が建設した重厚な橋が架かっています。19世紀までは川に架かる唯一の橋でした。建設から2000年経った現在も、歩行者用の橋として使われています。「すべての道はローマに通ず」という名文句がありますが、ここから遠くローマまで約2000kmの街道が通じていたのです。

歴史ある町並みは、1988年に「サラマンカの旧市街」としてユネスコの世界遺産に登録されました。上の写真に写っている、このローマ橋の対岸に見える景観すべてが指定地域です。中央のひときわ高い建物が16~18世紀にかけて建設された新カテドラル。

石畳の道が町の中心、マヨール広場まで続いている
石畳の道が町の中心、マヨール広場まで続いている
四方を集合住宅に囲まれ、アーチをくぐり抜けた先がマヨール広場
四方を集合住宅に囲まれ、アーチをくぐり抜けた先がマヨール広場
スペインで最も美しいと誉れ高いマヨール広場
スペインで最も美しいと誉れ高いマヨール広場

ローマ橋を渡って15分ほど石畳の道を歩くとマヨール広場に到着します。ここはスペインで最も美しいと讃えられる広場。そして町の中心でもあり、市庁舎やツーリストインフォメーションもここに置かれています。サラマンカは、町の端から中心まで短時間で歩けるコンパクトサイズな町なのです。

マヨール広場では古くからさまざまなイベントが催され、中世には闘牛や魔女の火あぶりが行われたこともありますが、現在はパレードやミュージックダンスなど平和的な行事が行われます。この日は屋外コンサートの準備が進められていました。写真撮影したのは朝だったのでカフェやレストランのテーブルはまだ空いて見えますが、夕方以降はものすごく賑わいます。

コロンブスもここで学んだ、ヨーロッパ有数の歴史を誇るサラマンカ大学

コロンブスもここで学んだ、ヨーロッパ有数の歴史を誇るサラマンカ大学
「知識を欲する者はサラマンカへ行け」と言われたサラマンカ大学

サラマンカは「大学都市」と呼ばれていて、町の歴史は大学の歴史です。大学は1218年にレオン王国のアルフォンソ9世王によって設立されたスペイン最古の大学で、ヨーロッパでも3番目の歴史を誇ります。現在、私たちが日常的に使っている暦をグレゴリオ暦といいますが、それもここサラマンカ大学で作りだされました。

今年2018年は、開学800年を祝う記念すべき年としてイベントが多数計画されているそうです。現在の学生総数は約3万人で、半数がスペイン人、半数が外国からの留学生とのこと。中世に「知識を欲する者はサラマンカへ行け」と言われていましたが、今でも世界中から学生が集まってきています。

スペイン人は「スペイン語」のことを「カスティーリャ語 Castellano」といいます。スペイン語はもともとカスティーリャ地方の言葉だったのですね。そのカスティーリャ地方で最も正統かつ正確なカスティーリャ語が話されているのは、ここサラマンカ大学です。そのため、語学留学生も世界中からサラマンカに集まってきます。

 イサベル女王とアラゴン王フエルナンド2世のレリーフ
イサベル女王とアラゴン王フエルナンド2世のレリーフ

大学本館の正面ファサードはプラテレスコ様式の傑作で、中央にカトリック両王の姿が刻まれています。

1469年、カスティーリャ女王イサベルとアラゴン王フエルナンド2世が結婚して、それまでイベリア半島で覇を競っていた2大王国が統一されます。カトリック両王と呼ばれる、スペイン史上に輝く夫婦が誕生したことで、後に世界を征服するスペイン帝国の礎が築かれたのです。

しかし当時のスペインはまだ、世界からみれば小国でした。サラマンカ大学で航海術を学んでいたイタリア商人のコロンブスは、この町を訪れたイサベル女王に、西回りのインド航路発見航海の資金援助を願い出て、断られています。前人未踏の航海を成し遂げるだけの国力がスペインに無いことを女王は知っていたのです。

コロンブスは諦めきれずに幾度もイサベル女王に援助を仰ぎ、ついに1492年に認められて、小さな船団を編成できました。これによってスペイン人は新大陸征服へ動き始めます。

このサラマンカが、世界史を動かすきっかけを作ったのです。

当時のままの姿を残す講義室。現在は講義には使われていない
当時のままの姿を残す講義室。現在は講義には使われていない

15世紀の大学の講義室。窓が小さいことを除けば、現在とあまり変わらない雰囲気のようにも感じられます。コロンブスもここで学んだのでしょうか。

当時は暖房が無かったので、冬は極寒の地となるサラマンカで、大学生たちは教室でステップダンスをして暖をとっていたとか。

学問の都サラマンカは、なんと生ハムの聖地でもあった

学問の都サラマンカは、なんと生ハムの聖地でもあった
1階はバル、2階がレストランの、典型的なスペインの料理店

サラマンカは生ハムの聖地としても知られています。地域全体でスペインの生ハムの50%以上を生産しているのです。そこでイベリコ豚の生ハムを味わいに、聖地でも有数のレストラン、Corte & Cataに入りました。

イベリコ豚は、イベリコ豚の血統が50%以上の豚をそう呼べると法律で決められています。血統以外にも育て方などでランクが分けられています。

日本のレストランで出されるイベリコ豚は、残念ながらランクの低いものが少なくなく、名前はイベリコ豚ですが味がそれなりなこともあるようです。しかしここでは本物のおいしいイベリコ豚が食べられます。なんといっても生ハムの聖地ですから。

 イベリコ豚100%、80%など等級によって風味が異なる
イベリコ豚100%、80%など等級によって風味が異なる

生ハムカッター世界チャンピオンのアンセルモ・ペレス氏が、自ら生ハムをスライスしてくださいました。生ハムを切るコンテストがあることをこれまで知りませんでしたが、スペインでは有名なのだそうです。並んでいるのはすべてイベリコ豚の生ハム。さすが、世界チャンピオンの手によってスライスされた生ハムは整然と並べられています。そして美味しそうです。

スマホで写真を撮りはじめると、なかなか食事が始められない
スマホで写真を撮りはじめると、なかなか食事が始められない

食事が始まる前にスマホで写真撮影するのはお約束。テーブルに座ったお客さんたちがその場でSNSにどんどんアップしているようです。世界一の生ハムレストランで食事中だよ!と書いているのでしょうね。

■ Corte&Cata
・住所: Calle Libreros, 2, Salamanca
・営業: 昼13:00 - 16:00、夜20:30 - 23:30、バル9:30 - 23:30
・定休: 無休
・URL: http://corteycata.es/

16世紀の大聖堂に刻まれたのは、21世紀の宇宙の旅

16世紀の大聖堂に刻まれたのは、21世紀の宇宙の旅
12世紀に建てられた旧カテドラルに隣接する新カテドラル

見どころが多いサラマンカでも必見なのが新カテドラル。ゴシックとプラテレスコ様式が混ざった独特な姿をしています。よく見るとファサードが少し傾いています。1755年に起きたポルトガルのリスボン大地震の影響だそうです。

震源地のリスボンでは、地震だけでなく続いて発生した火災と津波で首都が壊滅し、ヨーロッパ史に残る悲劇でした。サラマンカとリスボンは直線距離にして約450kmも離れているのに、これほどの大建築がわずかとはいえ傾くとは、いかに大きな地震だったかが分かります。

16世紀の大聖堂に宇宙飛行士を彫刻するのがスペイン感覚
16世紀の大聖堂に宇宙飛行士を彫刻するのがスペイン感覚

北門ファサードの装飾彫刻に、宇宙飛行士の像が刻まれています。なぜ何百年も前に建てられたカテドラルに宇宙飛行士が刻まれているのでしょうか?

もちろん16世紀の彫刻家が20世紀の様子を知っていたわけではありません。実は、新カテドラルの石材はもろく、オリジナルの装飾が風雨に削られ失われていたので、1992年の大規模修繕時に彫刻も新しく刻まれました。宇宙飛行士は現代の作品なのです。

それにしてもカテドラルの装飾に宇宙飛行士を刻むなんて、スペイン人はなかなかお茶目ですね。実は、修復した時期が分かるという実用的な意味もあるのだそうです。いまではサラマンカの人気の撮影スポットになっていて、ツーリストがみんな写真を撮っていきます。

カテドラルの内部は荘厳で静寂につつまれている
カテドラルの内部は荘厳で静寂につつまれている

新カテドラルの回廊は、100近いステンドグラスを通してほのかに明るく、静かで、荘厳です。回廊にはイエスナザレ礼拝堂やサクラメンテ礼拝堂などのいくつもの礼拝堂がおかれています。

見事な天井の装飾を見つめていると宇宙に吸い込まれそうになる
見事な天井の装飾を見つめていると宇宙に吸い込まれそうになる
聖歌隊席中央には、楽隊全員に見えるような巨大な楽譜が置かれる
聖歌隊席中央には、楽隊全員に見えるような巨大な楽譜が置かれる
イスラム時代からイベリア半島の学問の中心地だったサラマンカ
イスラム時代からイベリア半島の学問の中心地だったサラマンカ

町全体が大学であり世界遺産であるサラマンカは、見所が尽きません。サラマンカ大学と同じ頃に創設された英国のオックスフォードもそうですが、学術施設と生活施設が合わさり、数多い歴史的建造物が見られるのが魅力的です。こんな町に住んでみたいですね。

ブルジョワの館の装飾も思索的なのがサラマンカらしい
ブルジョワの館の装飾も思索的なのがサラマンカらしい

こちらの建物の正面装飾は、各宗教の宥和をテーマにしています。3階がキリスト教のゴシック様式、2階がユダヤ教、1階がイスラム教を表しているのです。近世のスペインはカトリック以外の宗教への弾圧が激しかったのですが、近代になるとこのような建物が建てられたのですね。スペインのふところの深さを感じます。

スペインはイスラム統治時代が長かったこともあって、言葉や建築美術にイスラム風な要素がよくみられます。その文化的なモザイク振りがスペインの魅力でもあります。

世界遺産の町で、バル巡りが楽しめる!

世界遺産の町で、バル巡りが楽しめる!
学生街サラマンカの別名は、バルが多い町

ここは世界一の宵っ張りな国スペイン。しかも学生の街ですから、夜10時を過ぎても往来が賑やかです。一説によれば、サラマンカは人口比でスペインでもっともバルが多い町とされています。マヨール広場周辺は歴史的建造物に囲まれて、厳かながらも夜遅くまでおしゃべりの声がこだましています。

スペイン人はおしゃべり好きで声も大きいので夜のバルは賑やか
スペイン人はおしゃべり好きで声も大きいので夜のバルは賑やか

サラマンカのバルは、飲み物を1杯頼むとタパスがひとつついてくることで知られています。小さな皿からこぼれ落ちそうなほど大きい、パンに載せた生ハム、チョリソ、煮込みなどをつまんでいると、のん兵衛ならそれで夕飯になってしまいます。お店によって、味も量もバリエーションも違うので、絶品を出す店を探し当てるのも楽しみのひとつ。世界中から集まってきた学生たちと一緒にワインとタパスを味わいながら、バル巡りをしてみてはいかがでしょう。

サラマンカいち夜景が美しい通りといわれるラ・コンパーニャ通り
サラマンカいち夜景が美しい通りといわれるラ・コンパーニャ通り

次回は、レオンをご紹介します!


取材協力:カスティーリャ・イ・レオン州観光局
     スペイン政府観光局

フォトグラファー:有賀正博

筆者

地球の歩き方書籍編集部

1979年創刊の国内外ガイドブック『地球の歩き方』の書籍編集チームです。ガイドブック制作の過程で得た旅の最新情報・お役立ち情報をお届けします。

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