プラド美術館200周年を記念するフラ・アンジェリコとルネサンス展(スペイン・マドリッド)

公開日 : 2019年06月22日
最終更新 :
筆者 : 冠 ゆき
フラ・アンジェリコ『受胎告知とアダムとイブのエデン追放』1425-26, 国立プラド美術館所蔵
フラ・アンジェリコ『受胎告知とアダムとイブのエデン追放』1425-26, 国立プラド美術館所蔵

スペイン・マドリッドのプラド美術館(Museo Nacional del Prado)は、2019年で誕生200周年となります。これを記念し、2019年5月28日(火)から開かれているのが「フラ・アンジェリコとフィレンツェ・ルネサンスの台頭展(Fra Angelico and the Rise of the Florentine Renaissance)」。国内外40ヵ所から集められた82点のルネサンス初期代表作を揃えた同展覧会を紹介します。

スペイン・マドリッドにプラド美術館あり

スペイン・マドリッドにプラド美術館あり
プラド美術館ベラスケス・エントランス ©Museo Nacional del Prado

世界の主だった街には、ここにこの美術館あり、と目される施設があるものです。たとえば、パリならルーヴル美術館、サンクトペテルスブルグならエルミタージュ美術館、フィレンツェならウフィツィ美術館といった具合です。同様に、マドリッドの国立プラド美術館も、まさしくそのひとつです。

国立プラド美術館は、12世紀から20世紀初頭にかけてのヨーロッパ絵画を多く有することで知られます。画家でいえば、ベラスケス、ゴヤ、スルバラン、ルーベンス、ファン・ダイク、レンブラント、ボッティチェッリ、カラヴァッジョ、ラファエル、ティツィアーノ、フランスのヴァトー、ニコラ・プーサン、エルグレコなど有名どころが並びます。そのなかでも、特に所蔵数が多いのは、ベラスケス、ゴヤ、ルーベンスの絵画です。

1819年開館に際して基礎となったのは王家のコレクションであったため、当初は王立美術館と呼ばれていました。

フラ・アンジェリコ『受胎告知』

フラ・アンジェリコ『受胎告知』
展覧会の様子 フラ・アンジェリコ『受胎告知』 ©Museo Nacional del Prado

国立プラド美術館が、200周年を祝うにあたり選んだテーマが「ルネサンス」です。「再生」という意味を持つルネサンスは、ギリシアやローマなどの古代文化を再興しようという動きを指します。初期のルネサンスの動きが大きく見られたのは、当時経済的にも豊かだった今のイタリアの地域です。

フラ・アンジェリコは、そのフィレンツェ・ルネサンスの代表的画家のひとりです。なかでも、1420年代半ばに彼が描いた『受胎告知』は、初期フィレンツェ・ルネサンスの傑作とされています。国立プラド美術館所蔵のこの絵は、今回の特別展にあたり、実にていねいな修復を受け、オリジナルのクリアな色彩を取り戻しました。

とりわけ注目したいのは、聖母マリアの羽織るラピス・ラズリ鮮やかな布の色と、大天使ガブリエルの黄金の翼、またマリアを照らすまばゆいほどの聖なる光線です。

修道士だったフラ・アンジェリコ

修道士だったフラ・アンジェリコ
フラ・アンジェリコ『柘榴の聖母』国立プラド美術館所蔵

画家フラ・アンジェリコは、現代ではフラ・アンジェリコという名で知られていますが、実はこの名は、画家の死後、人々がつけたあだ名に過ぎません。生まれた時につけられた名前は、グイド・ディ・ピエトロだったようですが、その生年も実ははっきりしていません。

けれども、1408-1410年頃、ロレンツォ・モナコの工房に見習いとして入り、有能な助手となったのは確かなことです。また、画家として独り立ちしたのは、1417年のことでした。1420年には、フィレンツェ郊外のフィエーゾレのドミニコ修道院に入信しており、そこでの宗教名は、フラ・ジョヴァンニ(ジョヴァンニ修道士)でした。

修道士として暮らしながらも、画才を認めたあちらこちらの教会や修道院から依頼を受けて、フラ・アンジェリコは多くの宗教画を描きました。ヴァチカンやフィレンツェ、また短い期間でしたが、オルヴィエートでも制作活動をした記録が残っています。

特に、フィレンツェのサンマルコ修道院には、パトロンのひとりであったコジモ・ディ・メディチの注文で1440年から45年にかけてフラ・アンジェリコが描いたフレスコ画が、今も多く残っています。

亡くなったのは、1455年、ローマのドミニコ修道院でのことでした。フラ・アンジェリコ(天使のような修道士という意味)という呼び名が初めて文献に見られるのは、死後14年経ってからのことでした。

フィレンツェ・ルネサンスを代表する作品の数々

フィレンツェ・ルネサンスを代表する作品の数々
ドナテッロ『柘榴の聖母』バルディーニ美術館所蔵

今回の特別展で展示される80点余りの作品のうち、半数近くは、フラ・アンジェリコの作品です。また、同じ時期イタリアで活躍したマザッチオ、マソリーノ、フィリッポ・リッピ、ドナテッロ、ギベルティらの作品も加わります。たとえば、上の写真は、前項のフラ・アンジェリコと同じタイトルを持つ、ドナテッロの彫刻作品です。

フラ・アンジェリコの見たフィレンツェと、スペインから見たフラ・アンジェリコという二つの視点を意識したというこの特別展のキュレーターは、フィラデルフィア美術館の名誉キュレーター、カール・ブランドン・ストレク氏。氏は、フラ・アンジェリコとフィレンツェ・ルネサンスの専門家でもあります。

「フラ・アンジェリコとフィレンツェ・ルネサンスの台頭展(Fra Angelico and the Rise of the Florentine Renaissance)」の会期は、2019年9月15日(日)まで。2019年夏、スペインを訪れる予定の方は、どうぞ、このチャンスをお見逃しなく!

マザッチオ『聖パウロ』サン・マッテオ国立美術館所蔵
マザッチオ『聖パウロ』サン・マッテオ国立美術館所蔵

いかがでしたか。プラド美術館で開催中の「フラ・アンジェリコとフィレンツェ・ルネサンスの台頭展(Fra Angelico and the Rise of the Florentine Renaissance)」を紹介しました。フラ・アンジェリコの『受胎告知』を観に、プラド美術館へ出かけてみてはいかがでしょうか。

筆者

フランス特派員

冠 ゆき

1994年より海外生活。これでに訪れた国は約40ヵ国。フランスと世界のあれこれを切り取り日本に紹介しています。

【記載内容について】

「地球の歩き方」ホームページに掲載されている情報は、ご利用の際の状況に適しているか、すべて利用者ご自身の責任で判断していただいたうえでご活用ください。

掲載情報は、できるだけ最新で正確なものを掲載するように努めています。しかし、取材後・掲載後に現地の規則や手続きなど各種情報が変更されることがあります。また解釈に見解の相違が生じることもあります。

本ホームページを利用して生じた損失や不都合などについて、弊社は一切責任を負わないものとします。

※情報修正・更新依頼はこちら

【リンク先の情報について】

「地球の歩き方」ホームページから他のウェブサイトなどへリンクをしている場合があります。

リンク先のコンテンツ情報は弊社が運営管理しているものではありません。

ご利用の際は、すべて利用者ご自身の責任で判断したうえでご活用ください。

弊社では情報の信頼性、その利用によって生じた損失や不都合などについて、一切責任を負わないものとします。