ピカソのミューズ、才能豊かな「ドラ・マール」展をポンピドゥセンターで開催(フランス・パリ)
写真家、シュルレアリスト、画家と多くの顔を持つ20世紀のアーティスト、ドラ・マール。フランス・パリのポンピドゥセンターで開催中のフランス初の回顧展を紹介します。
『泣く女』ドラ・マール
ドラ・マールをご存知でしょうか?
ピカソに詳しい方ならその名を聞いたことがあるかもしれません。もしくは、名前に覚えがなくても、その姿を見たことがあるかもしれません。というのも、ピカソは『泣く女』をはじめ、ドラ・マールをモデルにした作品を複数残しているからです。
とはいっても、彼女は、モデルとしてピカソに出会ったわけではありません。2人の出会いは、あくまでアーティストとしてのものでした。
クロアチアの血を引くパリ生まれ、アルゼンチン育ち
ドラ・マールが生まれたのは1907年のこと。本名、アンリエット・テオドラ・マルコヴィッチ(Henriette Théodora Markovitch)。ドラ・マールと言うのは、後に自称した名前で、ドラは、セカンドネームであるテオドラの愛称、マールは、マルコヴィッチを短くしたものです。
父親はクロアチア出身の建築家で、その仕事のため、彼女は子ども時代をアルゼンチンのブエノスアイレスで過ごします。1920年代パリに戻ってからは、アートスクールで主に写真を学び、1931年映画装飾家と共同スタジオを開きます。
早くから、光と影の巧妙な使い方が評価され、ドラ・マールは、モードや建築、また広告写真などの分野で活躍しました。
シュルレアリスムがもたらした縁
1935年には、パリに個人でスタジオを開設。このころから、反ファシスムや、政治、シュルレアリスムへ傾倒するようになり、マン・レイやハンス・ベルメール、ブラッサイ、エリ・ロタールらアーティストと交流するようになります。また、現実にあるものを写しとるのに飽き足らず、フォトモンタージュなども手がけました。
ピカソと出会ったのもこの頃のことで、個性的なアーティストである2人は、互いに影響を与えあう存在となっていきます。
たとえば、1937年春には、当時『ゲルニカ』にかかっていたピカソの制作段階を、ドラ・マールが8枚の写真に収めるというコラボレーションを行っています。
出会いから約8年続いたピカソとの密な年月で、ドラ・マールはピカソのミューズともなり、ピカソは彼女をモデルにした絵を何枚も描きました。
写真から絵画へ、そうしてフォトグラムへ
ピカソとの出会いは、ドラ・マールが写真を学ぶ前から持っていた絵画への情熱を、再びかきたてる役目も果たしました。
ドイツのフランス占領時代、多くのアートがそうであったように、ドラ・マールの絵も、最初は暗く孤独な色彩のものから始まりますが、やがて、風景画を手掛け、1950年代には抽象画にも手を染めるようになります。
ただし、ドラ・マールは1946年ごろには自身の作品の公開をやめてしまったので、その絵画作品の全容が明らかになったのは、その死後、1997年以降のことでした。
写真から絵画へと移ったドラ・マールでしたが、1980年代になって、その2つを融合させたかのようなフォトグラムを制作しています。フォトグラムは、カメラを用いず印画紙を感光させるなどして表現するアートの手法です。
世界を廻る「ドラ・マール」展とパリ同時開催の「ピカソと戦争」展
ドラ・マール回顧展がフランスで開かれるのはこれが最初のことで、世界中に散らばる彼女の作品を80か所から400点近く集めた実に大規模なものです。
この特別展は、ポンピドゥセンターと、ロサンジェルスのJ・ポール・ゲティ美術館、ロンドンのテート・モダン美術館のコラボレーションの成果でもあり、パリの後は、ロンドン、続いてロサンジェルスで展示されることが決まっています。
絵画から始まり、写真、シュルレアリスム、そうしてまた絵画へと変遷していくドラ・マールの軌跡を追う意欲的な回顧展です。彼女の名を知る人も知らない人も、ぜひ足を運んで、彼女の多彩な才能を(再)発見してみてください。
時を同じくして、パリの軍事博物館では、「ピカソと戦争」展も開催中です。ドラ・マールが撮ったピカソの写真も展示されています。興味を持たれた方はどうぞぜひ合わせて鑑賞ください。
いかがでしたか。フランス・パリのポンピドゥセンターで開催中の「ドラ・マール」展を紹介しました。ピカソの『泣く女』に会いに、ポンピドゥセンターへでかけてみませんか。
筆者
フランス特派員
冠 ゆき
1994年より海外生活。これでに訪れた国は約40ヵ国。フランスと世界のあれこれを切り取り日本に紹介しています。
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