世界の映画祭で観客賞8冠の心温まるポーランドのロードムービー映画『家へ帰ろう』監督インタビュー
アルゼンチンから故郷ポーランドへ、ホロコーストから逃れた仕立て屋が約束を果たすために旅に出る、感動のロードムービーが2018年12月22日(土)シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー が決定しました。本作の公開を記念して、パブロ・ソラルス監督のインタビュー映像を、地球の歩き方ニュース&レポート独占でお届けします。
『家へ帰ろう』ストーリー
【ストーリー】
ブエノスアイレスに住む 88 歳の仕立屋アブラハムは、ブエノスアイレスからマドリッド、パリを経由して、ポーランドに住む 70 年以上会っていない親友に最後に仕立てたスーツを届けに行く旅に出る。
親友は、ユダヤ人であるアブラハムがホロコースト から逃れた彼を助け、匿ってくれた命の恩人であった。しかし旅の途中さまざまな困難に出会うアブラハムを出会う女性たちが 手を差し伸べてくれる。やがてかたくなだった彼の心も開けていき…
というストーリー。
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パブロ・ソラルス監督インタビュー
Q.撮影期間は全部でどれくらいだったのですか?
8週間。最初はブエノスアイレス、スペインが4週間、ポーランドが2週間でパリが1日ですね。
Q.ポーランド、ブエノスアイレスは別として、スペインとパリで撮影することに決めたのはなぜですか?
A.夜中に急に出発できて、ブエノスアイレスから一番頻繁に飛んでいる飛行機がマドリッド行きだったので必然的に。
Q.アブラハムがパリの駅で、ドイツを通らないようにポーランドへ行く切符を買おうとするシーン。切符販売窓口の係員が、英語で話しかけても、スペイン語で話しかけても「分からない」と答えるのが、とてもフランスっぽいと思いました。
A.やはり、そう思いますか(笑)? 第二次大戦中、フランスはドイツに侵略されており、アメリカはその解放を手助けしましたが、その際のフランス人は「英語を話せ」みたいのが気に食わなくて英語が嫌いだと聞いています。いまも英語が好きじゃないのは、当時の歴史的記憶が継続しているのだと思います。
Q.それぞれの国で撮影に苦労した点、撮りやすかった点を教えてください。
A.パリで撮影する時、駅での撮影許可を取っていたのですが、テロの影響でそれが後に却下されてしまったのには苦労しました。
また並べた服の上を歩くシーンは、映画の中ではドイツという設定ですが、当初、ポーランドのウッチ駅で撮影する予定でした。でも、ウッチは、駅自体がまだオープンすらしてない、とてもモダンな新しい建物だったのです。仕方なく、あのシーンはワルシャワ駅で撮りました。ただ、東京のような都会の駅なので、いろいろな音が鳴って、撮影は苦労しました。
Q.マドリッドに離れて住むアブラハムの末娘の腕には、ホロコースト時代のもののような刺青がありました。これにはどんな意図があるのでしょうか?
A.彼女のキャラクターは、「リア王」のオフェーリアに基づいて設計されています。リア王は3人の娘に、いかに自分を愛しているかを言葉にさせますが、末娘だけはどうしてもそれを言わず、王の怒りを買って、ほぼ勘当状態で疎遠になってしまいます。彼女も同じ。アブラハムのお気に入りの娘だったのに、言葉で表現しないことによって、愛がないものと受け止められてしまう。彼女のあのタトゥーは、父親への一番強い愛情の証明です。他の娘が、言葉でいくら「愛してる」と言ってもそれが本心かは分からない。でも末っ子の入れたタトゥーはすべてを物語っています。実際、ホロコーストの生存者、もしくは亡くなった方の子孫の間で、その時の番号をタトゥーとして入れることが広まっているようです。
Q.アブラハムは、痛めている足を「ツーレス」と呼び、パートナーのように話しかけます。「ツーレス」とはどういう意味なのでしょうか?
A.イディッシュ語で、「プロブレム(問題)」という意味があります。ドイツにいてもオランダにいてもハンガリーにいてもポーランドにいても、ユダヤ人は当時イディッシュ語を話していました。ドイツ語とロシア語とポーランド語が混ざったような言語で、国に関わらず、ユダヤ人が皆、同じ言語が話せることを目的に、ユダヤ人学校ではどこでも習うことができました。今はイスラエルを中心にヘブル語がオフィシャルとして扱われているので、イディッシュ語は消えつつあります。当時、演劇や音楽、文学で使われ、祖父母も使っていた美しい言語が消えつつあるのは、とても悲しい現実だと思っています。イディッシュ語を習った僕の両親も、子どもたちに聞かれたくない話はイディッシュ語で話していたそうです。
●監督にとってのポーランド
Q.ポーランドで最後に訪ねる建物は、実際におじいさまと関係のある場所なのでしょうか?
A.ええ。祖父が生まれ育った地域です。実際にウッチの市役所に行って祖父の住んでいた家を調べ、割り出してもらった場所です。撮影した家は、実際に祖父が住んでいた家ではありませんが、見た目は同じだし、同じ建築家の手掛けた建物ですし、あのブロックに住んでいたのは事実なので、私としては祖父の家と同じくらい感慨深く思っています。スクリーン上に祖父の生まれた場所を映し出すというのは、私にとって、とても意味のあることでした。よりエキゾチックな景観の街で撮影してもよかったのですが、祖父の出身地であるウッチで撮影することにこだわりました。役者にも撮影スタッフにも自分が感じていることを話し、共有してもらいました。それはスクリーンを通し、観客にも伝えたかったこと。そういう意味でもあの場所は大切なのです。
Q.ポーランドの映画をご覧になったときに感じることは?
A.昔のポーランドの映画を見ると、もしかしたら自分もその場にいたかもしれない、と考えたり、40年代や50年代の映画に出てくる子どもたちを自分の親戚に置き換えてみたりすることがあります。ポーランド自体、昔から成熟した映画文化を持つ国なので、とてもリスペクトしています。
公開情報
本作は、ホロコースト体験者であり、生涯「ポーランド」という言葉を口にすることすら拒んだパブロ監督の祖父との実体験が 基になっています。また、監督がカフェで耳にした「70 年以上たってから親友に会いに行く」という老紳士のエピソードから着想を 得て、何年経過しようとも消えることのない悲しい戦争の傷跡と、それを乗り越え年齢を重ねても新たな発見に飛び込んでいく 老紳士の人生の旅を描く作品に昇華させた作品です。
■『家に帰ろう』
監督・脚本:パブロ・ソラルス
音楽:フェデリコ・フシド (『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』『瞳の奥の秘密』)
撮影:フアン・カルロス・ゴメス
出演:ミゲル・アンヘル・ソラ (『タンゴ』『スール その先は…愛』)、アンヘラ・モリーナ(『ライブ・フレッシュ』
『シチリア!シチリア!』『題名のない子守唄』)、オルガ・ボラズ、ユリア・ベアホルト、マルティン・ピロヤンスキー、ナタリア・ベルベケ
2017年/アルゼンチン・スペイン/スペイン語/カラー/スコープサイズ/5.1ch/93分/原題:EL ULTIMO TRAJE/
英題:The Last Suit
配給:彩プロ
© 2016 HERNÁNDEZ y FERNÁNDEZ Producciones cinematograficas S.L., TORNASOL FILMS, S.A RESCATE PRODUCCIONES A.I.E., ZAMPA AUDIOVISUAL, S.L., HADDOCK FILMS, PATAGONIK FILM GROUP S.A.
【続報】人気落語家 林家木久扇 登壇! トークイベントレポート
12月22日より公開中のアルゼンチンのパブロ・ソラルス監督『家へ帰ろう』(彩プロ配給)。 公開2日目となる12月23日、シネスイッチ銀座にて『家へ帰ろう』の公開記念トークイベントが行われ、落語家の林家木久扇 さんが登壇しました。
おなじみの黄色の着物で登壇した木久扇さんは、『実は映画が好きなんです。スーパースターの林家木久扇でございます』と 軽快な口上からスタート。 本作へ向け『“アブラハム、家へ帰ろう!ドイツを通らずに” 70 年前の恩人に仕立てた洋服をポーランド迄届ける老職人、この 映画は静かなスケッチの反戦映画だ。観ていて私も主人公と歩いていて足が痛い。』とコメントを寄せていた木久扇さん。その 真意を問われると、『主人公はホロコーストで足を痛めつけられた経験を持っています。役者さんが知らない方ばかりで、ドキュ メントのように見たんですね。私は今年81歳になりますが、東京大空襲を経験しておりまして、近くの小学校の防空壕におば あちゃんの手引きで逃げる時におばあちゃんが『お兄ちゃん(木久扇さんのこと)足が痛いよ、足が痛いよ』と言っていたんです ね。映画でもそのセリフがあって共感しました。人ごとではない映画でございますね。』と体験談を交えて話しました。
『映像では出てきませんが、妹がトラックに詰め込まれて収容所につれていかれてしまったと主人公がセリフで語るシーンは(主人公と一緒に)悔しい気持ちになりました。また、冒頭のシーンで主人公が明日高齢者施設に入るため孫に写真を一緒に 撮ろうと頼むと「お金を出したら撮ってあげる」と言われるシーンは生々しくて。映画の作り方の上手な監督だなと思いました』と 見どころを語りました。
筆者
地球の歩き方ウェブ運営チーム
1979年創刊の国内外ガイドブック『地球の歩き方』のメディアサイト『地球の歩き方web』を運営しているチームです。世界約50の国と地域、160人以上の国内外の都市のスペシャリスト・特派員が発信する旅の最新情報をお届けします。
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