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『ONODA』アルチュール・アラリ監督にカンヌでインタビュー、終戦後30年間戦い続けた旧日本兵の物語

2021年07月19日

第74回カンヌ国際映画祭が2021年7月6日〜17日にカンヌで開催されました。昨年はコロナ禍によって通常通りの開催ができず、2021年はスケジュールを例年の5月から7月に変更。2年ぶりにカンヌの町で開かれました。今年もいくつか日本関連の映画が出品されていますが、そのなかで「ある視点」部門に出されたのが『ONODA 一万夜を越えて』です。終戦を知らされずフィリピン・ルバング島のジャングルに残り続け、戦後約30年目にして日本へ生還した小野田寛郎旧陸軍少尉を描いた人間ドラマ。日本では2021年秋に公開されます。映画祭の様子、および同作を撮ったアルチュール・アラリ監督にお話を聞きました。

フランス人監督が描く日本兵の物語に拍手鳴り止まず

アルチュール・アラリ監督

『ONODA 一万夜を越えて』は第74回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門オープニング作品として、7月7日に現地で公式上映されました。当日はアラリ監督のほかに、同作に出演する森岡龍さんが日本から参加。主演の遠藤雄弥さんと津田寛治さんは、新型コロナウイルスの感染症対策のためスケジュール調整ができず、カンヌ入りが叶いませんでしたが、公式上映では森岡さんが遠藤さんのお面をつけて登場しました。

上映後は観客から長いスダンディングオベーションが贈られました。アラリ監督の感激する様子に、会場はさらなる拍手の渦に。翌7月8日の公式記者会見では、カンヌ国際映画祭での特例として、日本人としては初めてのリモートでの記者会見への参加となりました。

拍手に包まれ抱き合うアラリ監督(左)と遠藤雄弥さんのお面を持って登場した森岡龍さん(右)

同作の日本人キャストは、すべてオーディションによる選考で決まり、ロケ地であるカンボジアのジャングルにて、2018年12月から2019年3月の約4ヵ月にわたって撮影されています。

『ONODA 一万夜を越えて』撮影のきっかけは父との会話

公式記者会見に登壇したアラリ監督(左から3人目)とリモート出演の遠藤雄弥(画面左)さんと津田寛治(画面右)さん

──カンヌでの公式上映が終わったあとの感想を教えてください。

すごくすばらしい瞬間でした。あれだけ長いスタンディングオベーションをいただけて、とても感動しました。(上映という)一瞬のなかにそれまでの時間の積み重ねがありました(アラリ監督、以下同)。

──同作を撮ろうと思ったきっかけは?

自分の父親と話していたときに思いつきました。もともとは冒険映画を撮りたいと思っていて、ロバート・ルイス・スティーヴンソンやジョゼフ・コンラッドの小説を読みながらテーマを探していました。それら小説は断片としておもしろい箇所はあるのですが、テーマとするまでには至らなかった。そのことを父と話していたら、父から「私が24歳のときに、戦後も約30年間戦争を続けていた日本の兵士が帰ってきたことがあった」という話を聞かされ、一気に心が動かされました。

──完成までの期間はどれくらいかかりましたか?

小野田さんの本を読みながら、これはすごく強いシーンになるだろうなという箇所をリストアップしていったのが2013〜2014年にかけて。撮影を始めたのは2018年です。撮影までには4〜5年かかっています。ただ、『ONODA 一万夜を越えて』を企画中に私自身の初長編『汚れたダイヤモンド』(2016年日本公開)も撮っていますので、実際に費やした期間はもう少し短いです。

脚色がいらないほどの壮絶な小野田さんの戦争体験

ルバング島を歩く映画のワンシーン

──配役はどう行いましたか?

オーディションにかなり時間をかけました。全体で1年半くらいでしょうか。私はフランスに住んでいて、役者の皆さんは日本に住んでいますので、日本にいてずっと俳優さんを見ていることはできなかったからです。日本側が役者をピックアップし、それに対し私が判断を下すのと並行して、私自身もネットにある日本人俳優のデータベースのサイトを見ながら探しました。

ダブル主演の遠藤雄弥(左)さんと津田寛治(右)さん
周囲にも実力派の役者を揃えた

──今作では演出をどう考えましたか?

そもそも小野田さんの話は、豊かな出来事に満ちあふれています。そのため、脚本を書いていて何か足りなくて自分たちでつけ足さないといけないというよりは、数多くある出来事を、どう物語のなかで一貫性を持たせて、どう整合性をもたせていくかというのが問題でした。小野田さんの話は神話のようですが、同時に本当の話です。本当にはあり得ないけれど、しかし実際の話というところが自分のなかですごく重要でした。

この映画を作るなかでの大きな問いに「名前」がありました。小野田さんの名前を出さないこともできたのですが、私は小野田さんの名前を出したいと思いました。小野田さんの体験は、フィクションではない実際のことです。だから、小野田さんとともにその場にいて、小野田さんに指先で触れるような形でこの映画を撮りたいと思いました。現実に根差すけれど、現実に忠実ではないというバランスが、神話のようだけれど本当にあった話を表現する上での方法論でした。

英雄を守りたいという意識が小野田さんの描写を鈍らせる

インタビューに答えるアラリ監督

──小野田さんの描き方について気をつけたことは?

この映画を撮るにあたって、主人公である小野田さんに共感を持つことは重要でした。しかし小野田さんに共感を持つことで、小野田さんを辛辣に描ききれていないという点もあったかもしれません。自分の物語の英雄を守りたいという意識が、無意識のうちにあったかもしれません。脚本を書き進めて気づいたのは、本来もっと正面から向き合わないといけない道徳倫理の問題に向き合いきれていないのではないかとも思いました。

小野田さんはフィリピンで、実際に人々に危害を加えたことがありました。小野田さんは頭のいい人でしたから、無自覚に暴力を働いているわけではありません。しかし、小野田さんは自分は戦争のなかにいると思っていますから、敵を殺めることができます。自分の仲間でさえも、裏切るようなことがあれば、殺めることができます。

物語が進んでいくなかで、見ている人たちが単純に小野田さんに感情移入して、彼の視点で物事が進んでいくのではなく、一歩横に退いて小野田さんを見つめられるようにしたかった。そのため脚本の初稿を直す上で、小野田さんの暴力シーンをもう少し強調しました。例えば、島民の人が傷ついている様子を加えることで、表現できるのかもしれない。そういうことを経て、いまの形になっています。

文化の違いの先にある普遍的な人間の物語に注目

公式記者会見後のアラリ監督

──小野田さんのことを現代で語る意味はどこにありますか?

現在とつながり、反応する部分はもちろんあります。何か自分たちが信じるものに対して全身を捧げたために、それが彼らをひとつの世界に閉じ込めてしまうことがあります。孤独というのも人類が抱えている永遠のテーマです。また陰謀論みたいなもの、フェイクニュースや、誰かが世界を操っているのではないかという見えない何かに対する恐怖が、想像力によって生まれてしまうという状況は、現在ともつながります。しかし今回のモチベーションは、もっと普遍的な何か、人間性というものに触れたいという点でした。

──日本の人たちにコメントを。

この作品は、私のなかの最も大きな冒険でした。この旅路で私はさまざまなことに出会い、新たな世界が開きました。その世界のひとつというのは、皆さんの国である日本です。しかし、私は日本という国をあまり知っているとは言えません。私が知っているのは、日本で出会った人たちです。

私は今作で、国や文化やそういったものを超えたところにある、人間性の物語を描きたいと思っていました。国や国籍によって文化の違いはありますが、じっくり見つめ耳を傾け観察すると、その違いを超えた、何か似通ったものに飛ぶことができます。だから今作は、もちろん小野田さんの物語ではあるのですが、その先にある普遍的な人間の物語というもことも見ていただくことができたら、うれしいなと思っています。

■ONODA 一万夜を越えて
・公開: 2021年10月8日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
・監督: アルチュール・アラリ
・制作: bathysphere productions
・配給: エレファントハウス
・URL: https://onoda-movie.com
・出演: 遠藤雄弥、津田寛治、仲野太賀、松浦祐也、千葉哲也、カトウシンスケ、井之脇海、足立智充、吉岡睦雄、伊島空、森岡龍、諏訪敦彦、嶋田久作、イッセー尾形

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※当記事は、2021年7月16日現在のものです

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