チベット映画『巡礼の約束』は2月8日(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー!

公開日 : 2020年01月30日
最終更新 :

いよいよ2020年2月8日から、四川省ギャロンの人々の生活や文化をベースに撮られた初めての映画『巡礼の約束』が、東京神田神保町の岩波ホールを皮切りに全国で公開されます。

公開に先駆けた2019年12月10日、監督のソンタルジャさん、プロデューサー兼主演のヨンジョンジャさんが試写を楽しんだ観客の前で、作品について45分間にわたり熱く語るトークショーが行われました。既に各所のネット記事等に掲載されていますので検索して読んでいただくとして……ここではそれら既報ではあまり触れられていなかった内容を拾ってご紹介しましょう。

場面写真:©GARUDA FILM
N:©Hiroyuki NAGAOKA

ヨンジョンジャさんの企画意図とは?

ヨンジョンジャさんの企画意図とは?
ヨンジョンジャさんは中国では歌手としても有名

役者として初めて映画に出て演技をしたという、主役ロルジェを演ずるヨンジョンジャさんは本職は歌手であり、この映画のプロデューサーでもあります。言葉の違いで4つに分けられるチベットの地域のうち、四川省アバ・チベット族チャン族自治州にあるギャロンがヨンジョンジャさんの故郷。これまでほかの3つの言語圏の映画は撮られていたのにギャロンだけはまだだった、というヨンジョンジャさんは、ギャロンの人たちの生活や文化を映画を通して伝えたいという思いで、『巡礼の約束』を企画したそうです。

ロルジェとウォマの住む家は、ギャロン地域で一般的な石造り
ロルジェとウォマの住む家は、ギャロン地域で一般的な石造り

映画はギャロンのシーンから始まります。スクリーンに映し出される石造りの建物や女性の衣装はギャロン独特の文化のひとつ。農耕文化であるギャロン地域では、家屋は定住に向いたしっかりとした石造りになっているのが特徴で、女性たちの美しい髪飾りや民族服といった服飾にも目を惹かれるものがある、といいます。

ヨンジョンジャさんの故郷の家も、映画に出てくるのと同じような石造りの建物。彼の説明によれば、ギャロン地区の石造りの建物というのは3階建てか4階建てで、1階は牛や羊などの家畜がいる場所、2階は人が生活したり炊事をしたりする場所、3階は食糧を保存しておく倉庫という構造になっているとのこと。チベット仏教は信仰心に篤いため、3階の場合も4階の場合も、いちばん上の階には仏壇や仏像を祀る場所が必ずあるのだそうです。

監督ソンタルジャさんの語るチベット人の“約束”

監督ソンタルジャさんの語るチベット人の“約束”
『巡礼の約束』は監督にとって長編第3作目にあたる

一方、監督として撮影現場の指揮を執ったのは、同じチベットでも違う地域、アムド出身のソンタルジャさん。五体投地で行く巡礼について話してくださいました。

四川省のギャロンからチベット自治区のラサはおよそ2000kmの距離で、巡礼にはだいたい1年半くらいはかかるといいます。巡礼に臨む全員が五体投地を用いるわけではなく、普通に歩いたり、交通機関を使ったり、それぞれの方法で挑むのだそうですが、共通するのは巡礼をやり遂げる強い意志。

五体投地を続けるウォマの下へロルジェとノルウが駆けつける
五体投地を続けるウォマの下へロルジェとノルウが駆けつける

もともとチベットの人たちにとって、『約束を守る』というのはとても大事なこと。「漢民族は約束を文字で紙に記し、チベットの人たちは口で伝える」と言うように、一度言葉に出したからには必ず守らなければならないのが彼らの“約束”なのです。

加えて“ラサへの巡礼”それ自体が、強い信仰をもつチベットの人たちにとって重要なこと。できない約束は軽々しく口にしない、口にした約束は必ず守る。一度口にした約束を絶対に守る彼らが『ラサへ巡礼に行く』と言葉にしたとき、これは非常に重い約束になるのだと、ソンタルジャ監督は言います。

役者を思い描きながらアテ書きで脚本を執筆

役者を思い描きながらアテ書きで脚本を執筆
1000人超の候補から監督自らが選んだノルウ役は“目”が決め手

そのソンタルジャ監督は、前作『草原の河』に続いて日本で2本目の公開となる『巡礼の約束』の脚本を、ロルジェ役のヨンジョンジャさんのまだ見ぬ演技を想像して執筆したのだそう。妻のウォマが亡くなったあとお寺でのお坊様とのやりとりのときなどを書きながら、ヨンジョンジャさんがどういう顔をするか、その目つきまで浮かんできていたとか。

当のヨンジョンジャさんは、劇中のロルジェはあくまでも監督の書かれた人物像で、わたしとは違うと思っていたと笑いながら応えつつ、生身の自分がロルジェと同じ境遇に立ったとき、巡礼をやめるのか続けるのか、座ってよくよく考えると思う、と真摯な目で語りました。

絶妙の演技を見せる仔ロバ、その秘密は……
絶妙の演技を見せる仔ロバ、その秘密は……

監督は冗談で「ヨンジョンジャさんよりはウォマやノルウや、もっと言えばロバのほうが演技がうまい」と語り、そのロバをどうやって演出したのかと質問されて、次のように答えています。

「前作『草原の河』の仔羊に演出をつけたときもそうでしたが、今回のロバも、母と仔を一緒に撮影現場へ連れていきました。カメラの後ろのほうに置いた母ロバをスタッフが動かすと、仔ロバはお母さんのほうに近づいていきます。母ロバの力を借りて、仔ロバをカメラの画角の中で期待するほうへ動かすように演出しました」

日本の観客のみなさんへのメッセージ

日本の観客のみなさんへのメッセージ
息の合ったトークで制作裏話を披露してくださったおふたり(N)

最後に、日本の観客にどんなところが伝わってほしいと思っているかをヨンジョンジャさんがまとめてくださいました。

「もちろんこの映画を通じてみなさんは、チベット、おもにギャロン地区の建築、それから民族衣装、また方言といった、民族の文化についてご覧になることができます。けれど、さらにこの映画ではギャロンの文化と民俗を通じて、人の本当の心、あるいは感情、あるいは愛がどういうものか、ということをご覧になることができます。心、感情、愛、こういったものは、どの民族なのか、どの国の国民であるかを問わず、同じものだと思います。ですから私は、この映画を通じてギャロンについて理解していただくだけではなく、チベット方面に住む人たちもみなさんと同じような感情、みなさんと同じような愛の心をもっている、ということを観ていただきたいと願っています」

歌手としての名前は「容中爾甲(ロンジョンアルジャ)」
歌手としての名前は「容中爾甲(ロンジョンアルジャ)」

トークショーの〆に本来の姿である“歌手”ヨンジョンジャとして披露した生歌は、劇中で家族三人で焚き火を囲みながら歌っていた民謡『阿拉姜色(ALA CHANGSO)』。映画の原題でもあり、「私の故郷ギャロンで、お酒をすすめ、乾杯をすすめるときの歌です」とヨンジョンジャさんが曲紹介をしたとおり「一緒にお酒を」という意味だそう。

■『巡礼の約束』

■『巡礼の約束』
3人それぞれの強い想いが次第にひとつになっていく

上映日程:2020年2月8日(土)より、岩波ホール(東京神保町)にて。以後、全国で順次上映

配給:ムヴィオラ
監督:ソンタルジャ
プロデューサー:ヨンジョンジャ
脚本:タシダワ、ソンタルジャ
出演:ヨンジョンジャ、ニマソンソン、スィチョクジャ
中国語題:阿拉姜色
英語題:Ala Changso
公式サイト:moviola.jp/junrei_yakusoku
109分/中国/2018/COLOR/シネマスコープ/5.1chサラウンド

ソンタルジャ監督:
美術家、撮影監督の経験から、映像で物語る才能をさらに成熟させ、チベット映画人第1世代の重要な監督であり、世界中が注目する存在。
1973年5月29日生まれ。北京電影学院で学んだ後、ペマツェテン作品などの美術監督や撮影を担当し、2011年、初監督作『陽に灼けた道』を発表。バンクーバー国際映画祭、香港国際映画祭をはじめ世界中で高く評価された。長編第2作の『草原の河』はベルリン国際映画祭で上映され、上海国際映画祭で史上最年少の女優賞を獲得し、日本で初めて商業公開されたチベット人監督となり注目を集めた。

ヨンジョンジャ:
主演ロルジェ役兼プロデューサー。
チベット文化圏、中国全土にとどまらず、世界的に知られるチベット人歌手であり、チベット文化の普及・継承を担う芸術家。
1969年、映画冒頭の舞台となるギャロン地域に生まれる。2001年にアルバム《高原紅(Red Plateau)》をリリースし、大ヒット。チベットの伝統的音楽と歌謡曲を融合し、特色あるチベット式歌唱法にオリジナリティを加え、中国の音楽シーンに独自の道を切り開いた。また、自らの歌手活動だけでなく、2011年には国際的ダンサーのヤン・リーピンが芸術監督と主演を務めた歌舞劇『蔵謎(クラナゾ)』をプロデュースし、日本でも東京・Bunkamuraオーチャードホールほか全11公演を大成功させている。本作を自ら企画し、初映画プロデュース、初映画主演。

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筆者

地球の歩き方書籍編集部

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